IDaaS製品の比較4選!主な機能やメリットなどを解説

IDaaS(Identity as a Service)は、ユーザー認証やアクセス制御、MFA(多要素認証)などの機能をクラウド上で一元管理できるサービスです。これにより、セキュリティ強化やIT管理業務(ID管理、端末・ソフトウェアの管理など)の効率化に大きく役立ちます。
一方で、数多くのIDaaS製品が存在する中で、「どの製品が自社に最適かわからない」「機能が多すぎて比較が難しい」といった声も多く聞かれます。製品ごとに機能の違いや得意分野、対応範囲が異なるため、導入には慎重な検討が必要です。
本記事では、IDaaSの重要性と代表的な機能、製品選びの比較ポイントを解説します。その上で、代表的な4つのIDaaS製品の特徴を比較し、自社に最適なサービス選定の参考になるよう情報を整理しました。ぜひ導入検討の際にお役立てください。
IDaaSの重要性
企業のIT環境が急速にクラウド化・分散化している現代において、ID管理の重要性はいっそう高まっています。その中核を担うのが、IDaaSと呼ばれるクラウドベースのID管理サービスです。IDaaSは、社内外の業務アプリケーションに対するユーザー認証やアクセス制御を一元的に管理できるソリューションとして注目されています。
IDaaSに含まれる主な機能には、SSO(シングルサインオン)、MFA(多要素認証)、アクセス制御、ユーザーライフサイクル管理などがあり、これらの機能は企業のITガバナンス強化や情報漏洩の防止、業務効率の向上に直結します。例えば、SSOを活用すれば一度のログインで複数のサービスにアクセスでき、ユーザーの利便性とセキュリティの両立が可能です。また、MFAによって不正アクセスを防止し、アクセス制御により部門や役職ごとに適切な情報閲覧を制限できます。
特にテレワークやモバイルワークが一般化する中で、社外からのアクセスを安全に制御する重要性が注目されており、IPアドレス・端末ごとに制限を設ける機能を持つIDaaS製品のニーズも高まっています。このような背景から、企業は自社のIT環境やセキュリティ要件に適したIDaaS製品を比較・選定することが急務といえるでしょう。
IDaaSについてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
IDaaSの主な機能
IDaaSは、クラウド上でIDおよびアクセス管理を実現するサービスであり、企業のIT基盤における中核として広く活用されています。複数のSaaSアプリケーションやクラウドサービスを利用する現代の業務環境では、IDの一元管理が重要です。
特に注目すべきIDaaSの機能として、下記の3つが挙げられます。
- SSO(シングルサインオン)
- MFA(多要素認証)
- アクセス制御とログ管理
これらは、業務効率化とセキュリティ向上の両立に貢献し、IDaaSを導入する際の重要な判断基準となります。ここでは、それぞれの機能がどのような課題を解決し、企業にもたらすメリットは何かについて詳しく見ていきましょう。
SSO(シングルサインオン)
IDaaSの主な機能の1つが、SSO(シングルサインオン)です。
SSOは、1回のログイン操作で複数の業務アプリケーションにアクセスできる仕組みを指します。従来のようにシステムごとに個別のログインが必要な状態では、ユーザーの作業効率が下がるだけでなく、パスワード管理も煩雑になり、セキュリティリスクが高まります。
SSOを導入すれば、ログインの回数を減らし、業務アプリケーションの利用をスムーズに行うことが可能です。例えば、1日のうちに複数のクラウドサービス(Google Workspace、Salesforce、Boxなど)を使い分ける職種では、SSOの効果が特に大きく、業務負担を軽減できます。
セキュリティ面では、パスワードの使い回しや不適切な管理を防ぎ、人的ミスによる情報漏洩リスクの低減にもつながります。また、SSOはIDaaS上での一元管理が可能なため、アカウントの作成・削除・変更などの操作も一括して行え、IT部門の運用負荷も軽減されるでしょう。
MFA(多要素認証)
IDaaSの主な機能としてMFA(多要素認証)も挙げられます。
MFAは、単一の認証要素に依存せず、複数の認証手段を組み合わせて、より安全なユーザー認証を実現する仕組みです。一般的には「知識情報(パスワード)」「所持情報(スマートフォンなど)」「生体情報(指紋や顔認証)」のうち、2つ以上を組み合わせて認証を実行します。
近年は、フィッシングや総当たり攻撃(ブルートフォースアタック)、情報漏洩などの脅威が増加しており、ID・パスワードだけに依存した認証方式では不十分なケースが増えているのが実情です。フィッシングとは、ユーザーを偽のログインページなどに誘導し、ID・パスワードを騙し取る手法であり、見た目では正規サイトと区別がつかない場合も多く、被害が後を絶ちません。
一方、総当たり攻撃は、考えられるすべてのパスワードを機械的に試すことでログインを試みるサイバー攻撃であり、パスワードが短かったり単純だったりすると、比較的短時間で突破されてしまいます。こうした背景から、MFAの導入はセキュリティ対策の標準とも言える存在になりつつあります。
特に、社外から社内システムへアクセスする機会が増えたことで、MFAはリモートワークやモバイルワーク環境における安全なアクセス手段として欠かせません。また、ユーザーや業務内容に応じて異なる認証手段を設定できる柔軟性も大きな魅力です。
アクセス制御とログ管理
アクセス制御とログ管理もIDaaSの主な機能の1つで、セキュリティ機能の中でも特に重要な役割を担います。
アクセス制御では、ユーザーや部門ごとに閲覧・操作できる情報とシステム範囲を細かく設定でき、不正利用、情報漏洩のリスクを未然に防ぐことが可能です。例えば、営業部門には顧客情報へのアクセス権を、経理部門には財務システムへのアクセス権を、それぞれに適切な権限を割り当てることで、業務に不要なデータへのアクセスを制限し、最小権限の原則を徹底できます。なお、最小権限の原則とは、業務遂行に必要最小限のアクセス権だけをユーザーに付与するというセキュリティの基本方針です。
一方、ログ管理機能では、誰が・いつ・どこから・何にアクセスしたかを記録できます。こうしたアクセスログは、万が一のインシデント対応時に原因特定や被害範囲の確認に活用でき、社内の監査対応、情報セキュリティポリシーの遵守状況把握にも役立ちます。リアルタイムでのログ収集や異常検知に対応したIDaaS製品を選べば、セキュリティインシデントの早期発見と対応スピードの向上にもつながるでしょう。
IDaaS製品の比較ポイント
現在、国内外で多くのIDaaS製品が提供されており、それぞれが独自の機能や特徴を持っています。しかし、企業が自社に最適なIDaaSを選定するには、単に知名度や導入実績だけに頼るのではなく、「自社の運用体制」「セキュリティ要件」「拡張性」「費用対効果」など多角的な観点から比較・検討することが重要です。
特に、IDaaSは日常的に利用される業務インフラの一部となるため、導入後の継続的な運用やサポート、将来的なユーザー数・機能拡張にも柔軟に対応できる「スケーラビリティ(拡張性)」も考慮する必要があります。
ここでは、IDaaS製品を選ぶ際に注目すべき4つの代表的な比較ポイントを紹介し、それぞれの判断軸について詳しく見ていきましょう。
- セキュリティ機能の充実度
- 導入しやすさとサポート体制
- 社内システムとの連携性
- 価格とコストパフォーマンス
セキュリティ機能の充実度
IDaaS製品の比較ポイントは、セキュリティ機能の充実度です。
IDaaSは、組織のデジタル資産へのゲートとなるサービスであり、セキュリティ機能の充実度は最も重視すべき要素になります。万が一、IDaaS経由で不正アクセスが生じた場合には、重要な業務データが外部に流出するリスクもあるため、その対策としてどのような機能が備わっているかを確認する必要があります。
具体的には、MFA(多要素認証)やSSO(シングルサインオン)に加え、IP制限・端末認証・時間帯制御といった詳細なポリシー設定が可能か、管理者権限の階層設計が行えるかなどがチェックポイントです。また、ログ監視やアラート通知機能が充実しているかどうかも、セキュリティインシデントの早期発見において重要となります。
そのため、ISO 27001やSOC 2などの情報セキュリティに関する第三者認証を取得している製品かどうかも併せて確認し、自社の求めるセキュリティレベルに適合する製品を選定しましょう。
導入しやすさとサポート体制
導入しやすさとサポート体制もIDaaS製品の比較ポイントの1つです。
IDaaSは導入して終わりではなく、日々の運用・管理を継続する必要があるため、導入時の難度と導入後のサポート体制も重要な選定基準となります。初期設定が過度に複雑だと、IT部門の工数が増えたり、社内展開が円滑に進まなかったりする可能性があることも少なくありません。
そのため、UIが直感的で使いやすく、初期設定を画面の案内に沿って進められるウィザード(設定支援機能)が充実した製品は、非専門職の担当者でも安心して扱える点で評価できます。また、ユーザーアカウントの一括登録やテンプレート設定機能の有無も、導入時の作業効率を左右します。
サポート体制については、問い合わせ手段(電話・メール・チャット)、対応時間(平日のみか24時間対応か)、日本語対応の有無、導入時の技術支援やトレーニングの提供範囲などを確認しましょう。
社内システムとの連携性
社内システムとの連携性も、IDaaS製品の比較ポイントとして挙げられます。
IDaaSは単独で機能するものではなく、社内の業務システムやSaaSアプリケーションと連携して初めて、真の効果を発揮します。そのため、既存のユーザー情報やアクセス権限を一元管理する仕組みであるディレクトリーサービス(Active Directoryなど)、クラウドサービス(Microsoft 365、Google Workspace、Slack、Boxなど)とシームレスに統合できるかは重要な検討材料です。
特に、アカウント同期やプロビジョニング(自動アカウント作成・削除)、グループポリシーの引き継ぎ、外部IDプロバイダーとのフェデレーション(認証連携)に対応しているかどうかを確認することで、運用負担を大幅に軽減できます。
また、独自の業務システムを利用している企業の場合、アプリケーション間の連携を可能にするインターフェースであるAPIによる柔軟な連携が可能かどうかも選定基準になります。高い連携性を持つ製品を選定することで、将来的な拡張性と継続的な利便性を確保できるでしょう。
価格とコストパフォーマンス
IDaaS製品の比較ポイントとして、価格とコストパフォーマンスも大切です。
IDaaSの価格体系は、月額課金制(サブスクリプション)が一般的ですが、ユーザー数や提供機能によって大きく異なります。初期導入費用が安価でも、必要な機能がオプション扱いで追加コストが発生するケースもあるため、総合的なコストパフォーマンスで判断することが求められます。
価格を見る際には、下記のような視点で比較するのが効果的です。
価格を比較する際のポイント
- ベーシックプランと上位プランの機能差
- 管理者アカウント数に制限があるか
- サポートやアップデートの費用が含まれているか
- トライアルの有無や契約期間の柔軟性
また、無料プランの有無や検証環境を提供しているかどうかも、導入前の判断材料になります。コスト面だけにとらわれず、自社が求める機能・性能を適正価格で提供しているかという視点を持ち、将来的な拡張性も含めてバランスの取れた選定を行いましょう。
代表的なIDaaS製品の比較
市場には多種多様なIDaaS製品が存在しますが、どの製品も同一ではなく、それぞれに特徴や強みがあります。選定にあたっては、機能面やセキュリティ性能はもちろんのこと、自社の規模、導入目的、運用体制に合致しているかを見極めることが重要です。
ここでは、国内外で実績のある代表的な下記の4つのIDaaS製品を取り上げ、それぞれの特徴やメリットについて紹介します。
- Okta
- HENNGE One
- Microsoft Entra ID(旧称 Azure Active Directory)
- JumpCloud
代表的なIDaaS製品の比較表
サービス名 | 企業名 | 価格 | 無料プランの有無 |
---|---|---|---|
Okta | Okta Japan株式会社 | 要問い合わせ | なし |
HENNGE One | HENNGE株式会社 | 800円~ | なし |
Microsoft Entra ID (旧称 Azure Active Directory) |
Microsoft | 899円~ | あり |
JumpCloud | JumpCloud | 要問い合わせ | あり |
※価格や無料プランの有無は2025年8月時点の参考情報です。正確な内容は公式サイトを参照してください。
Okta
Oktaは、世界中の企業から支持を集めているグローバルなIDaaSソリューションで、ユーザビリティとセキュリティという本来相反しがちな要素を高いレベルで両立した製品です。
直感的なインターフェースにより、従業員が迷うことなく操作できる点が評価されています。また、数千以上のクラウドアプリケーションとの連携をワンクリックで実現できる多彩な統合オプションを備えており、大規模環境でもスムーズな運用が可能です。さらに、異常検知機能や管理者向けの監査ログ機能など、高度なセキュリティ対策も充実しており、高いリスク管理能力を発揮するでしょう。
HENNGE One
HENNGE Oneは、日本国内で多くの企業に導入されている国産のIDaaS製品です。
日本企業の運用環境に合わせて設計されており、業務に即したUI設計やマニュアル類が充実している点も特徴です。Google WorkspaceやMicrosoft 365をはじめとする各種クラウドサービスとスムーズに連携でき、アクセス制御・ログ管理機能も搭載しています。さらに、導入時には有人対応を含むサポート体制が整備されており、初めてIDaaSを導入する企業でも安心して導入・運用を開始できるでしょう。
Microsoft Entra ID(旧称 Azure Active Directory)
Microsoft Entra ID(旧称:Azure Active Directory)は、Microsoft社が提供するクラウド型IDaaSであり、Microsoft 365をはじめとする同社のサービスとの高い親和性が特徴といえます。
SSO(シングルサインオン)、MFA(多要素認証)、アクセス制御、IDライフサイクル管理といった基本機能がオールインワンで提供されており、Microsoft製品をすでに利用している企業にとっては、導入のハードルが低く、移行が容易です。また、自社のサーバー環境で運用するオンプレミスのActive Directoryともスムーズに同期できるため、クラウド移行中の企業にも適しています。
JumpCloud
JumpCloudは、クラウド上でID管理、デバイス管理、認証を一元的に提供する統合型IDaaSプラットフォームです。
SSO(シングルサインオン)、MFA(多要素認証)、アクセス制御、ディレクトリーサービスなど、ITインフラの基盤となる機能を単一の管理画面で一元的に操作できる点が最大の特長です。また、Windows、macOS、Linuxなど異なるOSを横断して管理できるため、異種混在環境にも柔軟に対応でき、端末設定や監視作業を効率的に行い、IT部門の負担を大幅に軽減します。加えて、JumpCloudは無料プランを備えており、スモールスタートを希望する企業にも適した選択肢となるでしょう。
IDaaS導入のメリット
IDaaSを導入する最大のメリットは、企業全体のセキュリティレベルを引き上げつつ、IT業務の効率化とコスト削減を同時に実現できる点です。特にMFA(多要素認証)やアクセス制御機能により、不正アクセス、情報漏洩のリスクを大幅に軽減できます。
また、ID管理やアカウント設定のプロセスを自動化し、一元的に管理することでIT部門の作業負担を削減して、人的ミスの防止にもつながるでしょう。これにより、社内からの問い合わせ対応や端末管理などの業務が効率的に行われ、全体の生産性が向上します。
さらに、クラウド型のIDaaSは初期投資を抑えながら、必要な機能を状況に応じて導入できる柔軟性も魅力です。拠点や端末の増加にもスケーラブルに対応でき、成長企業にも適したソリューションといえます。
IDaaS製品を比較して、最適なサービスを導入しよう
IDaaSは、現代の企業におけるセキュリティ強化や業務効率化、IT部門の負荷軽減を実現する上で、もはや欠かせないソリューションといえるでしょう。特に、SaaSやクラウドサービスの活用が加速する中で、ユーザーや端末のアクセス管理を一元的に行える仕組みが求められています。
しかし、IDaaSは製品ごとに提供機能や得意分野が異なるため、自社の運用体制・セキュリティ要件・拡張性を十分に踏まえた上で、比較・検討することが大切です。導入時の手間や将来的な運用負荷まで考慮して、自社に最適なIDaaSを選ぶことをおすすめします。
「JumpCloud」をはじめとする各種サービスは、規模や用途に応じて柔軟に対応可能です。まずは、比較表や導入事例を参考にしながら、自社に適したIDaaSの導入をご検討ください。
よくある質問
SSO(シングルサインオン)さえあれば十分では?
SSO(シングルサインオン)はユーザーの利便性向上に役立つ機能ですが、それ単体では十分なセキュリティ対策とはいえません。SSOにMFA(多要素認証)を組み合わせることで、なりすましや不正アクセスへの耐性が大幅に向上します。さらに、アクセス制御とログ管理を組み合わせることで、より安全で統制の取れたID管理が可能となります。
IDaaSは機能が多いほど優れている?
必ずしもそうとは限りません。機能が豊富であっても、自社の運用体制やITリテラシーに合っていなければ、使いこなすことができず、かえって運用負荷が増加する可能性もあります。IDaaSは「必要な機能を確実に使えるか」がカギであり、本当に運用しやすい構成かどうかを見極めることが大切です。