IDaaSとは?求められる理由やメリット、選び方を解説

IDaaSとは?求められる理由やメリット、選び方を解説

クラウドサービスやリモートワークの普及により、企業のIT環境は急速に進化しています。そうした中、注目を集めているのが「IDaaS(Identity as a Service)」です。IDaaSは、クラウド上でIDや認証情報を一元管理できるサービスで、業務効率の向上とセキュリティの強化を両立できます。従来のオンプレミス型ID管理では難しかったSSO(シングルサインオン)やMFA(多要素認証)の実装も、IDaaSによって柔軟に対応可能です。

本記事では、IDaaSが求められる理由や導入するメリット、課題、導入時の選び方などを解説します。情報システム部門やセキュリティ担当者にとって、現代のIT環境にふさわしいID管理のヒントが得られる内容です。

IDaaSとは、クラウド上で提供されるID管理サービス

企業のIT環境はクラウド化やリモートワークの普及により、従来のID管理では対応が難しい課題が増えています。IDaaSは、その課題に応える形で登場した、クラウド型のID管理サービスです。

IDaaSを活用することで、ユーザー認証やアクセス制御、アカウントの管理などを一元管理できます。特に、ソフトウェアをクラウド経由で提供するサービス形態のSaaS(Software as a Service)を複数活用している企業にとっては、ログインの煩雑さやセキュリティリスクを軽減できる有効な選択肢となるでしょう。

IDaaSが求められる理由

IDaaSは、現代のビジネス環境でその重要性を増しています。これは、SaaSの普及や働き方の多様化により、従来のID管理方法では対応が難しくなってきているためです。ここでは、IDaaSが求められる主な4つの理由について解説します。

  • SaaSの利用拡大によるID管理の複雑化
  • リモートワークの普及
  • SSO(シングルサインオン)による利便性向上
  • セキュリティ強化のための必要性

SaaSの利用拡大によるID管理の複雑化

IDaaSが求められる理由は、SaaSの利用拡大によるID管理の複雑化です。
近年、SaaSが普及したことにより、企業は日常的に複数のクラウドサービスを利用するようになりました。その結果、サービスごとに異なるID・パスワードを管理する必要が生じ、管理が複雑になっています。このような状況では、パスワードの使い回しや記録ミスが生じやすく、セキュリティリスクが高まる一方です。こうしたリスクを防ぐためにも、IDaaSが複雑化したID管理をシンプルかつ安全に実現できるソリューションとして求められています。

リモートワークの普及

リモートワークの普及も、IDaaSが求められる理由の1つです。
近年、働き方改革や新型コロナウイルスの影響により、リモートワークが広く普及しました。従業員が自宅など社外から社内システムへアクセスする機会が増えたことにより、従来の社内ネットワークを前提とした認証では対応が困難になっています。そのような中、IDaaSは、場所に依存しない認証基盤の構築に大きく役立ちます。

ただし、自社に本当に適した仕組みを構築するには、どのサービスを選ぶかが重要であり、容易ではありません。導入の際には、環境や要件に応じた見極めが求められるでしょう。

SSO(シングルサインオン)による利便性向上

IDaaSが求められる理由として、SSO(シングルサインオン)による利便性の向上も挙げられます。
SSOは、IDaaSが提供する中核的な機能の1つです。SSOを導入することで、ユーザーは一度のログイン操作で複数の業務システムやクラウドサービスへアクセスできるようになります。これにより、毎回ID・パスワードを入力する手間が省け、業務の効率化が図れます。また、パスワードの使い回しや紙による記録といった不適切な管理が減少し、情報漏洩のリスクを軽減できるでしょう。

このように、SSOによって利便性が高まるだけでなく、セキュリティやID管理の統制力も強化されるため、企業におけるIDaaSの導入が求められているのです。

セキュリティ強化のための必要性

セキュリティ強化の必要性も、IDaaSが求められる理由になります。
近年、サイバー攻撃や内部不正による情報漏洩のリスクが高まっており、こうした脅威に対応するために、企業には強固な認証・アクセス管理体制が求められています。

IDaaSは、複数の認証要素を組み合わせて、本人確認を行うMFA(多要素認証)などを活用し、ID・パスワードのみに依存しない安全なアクセス管理の実現が可能です。また、不正なログインや異常なアクセスが発生した際には、リアルタイムで検知・遮断する機能を備えているサービスも多く、迅速なインシデント対応ができます。

MFAやアクセス制御、ログ監視などを取り入れたIDaaSの活用は、セキュリティ強化の重要な第一歩となります。ただし、具体的にどこまで実現できるのかは、導入するサービスや運用体制によって大きく異なるため注意が必要です。

なぜSSO(シングルサインオン)がIDaaSにおいて重要なのか

IDaaSの導入を検討する際に、SSO(シングルサインオン)の活用は欠かせません。
SSOは、IDaaSが提供する代表的な機能の1つであり、複数のクラウドサービスや業務システムを安全かつ効率的に利用するための基盤となります。特に、SaaSの利用拡大やリモートワークの普及が進む中で、SSOはユーザーの利便性とセキュリティを両立させる重要な仕組みとして注目されています。ここでは、従来のSSOにおける課題と、それをIDaaSがどのように解決するかについて見ていきましょう。

SSOについてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

IDaaS登場以前のSSO(シングルサインオン)の課題

SSO(シングルサインオン)自体は以前から存在していましたが、サーバーや認証システムなどを自社内に設置・管理するオンプレミス中心の環境では構築・運用に手間がかかり、効果を発揮しにくいケースも多く見られました。ID・パスワードの管理がシステムごとに分散していると、ユーザーの利便性も管理者の運用効率も大きく制限されます。こうした従来の課題にどう対応するか、その有力な解決策の1つがIDaaSです。

IDaaSによるSSO(シングルサインオン)のメリットと可能性

IDaaSを導入することで、ユーザーは一度のログイン操作で複数のクラウドサービスや社内システムにアクセスできるようになり、ID・パスワードの再入力が不要になります。

この仕組みにより、認証の簡略化とセキュリティ強化を同時に実現でき、業務効率の向上と安全性の両立が可能になります。ただし、IDaaSと自社ネットワーク環境(プロキシ設定やVPN構成など)との連携には調整が必要な場合もあるため、導入前の設計段階で十分な確認と準備が欠かせません。

さらに、SSOの導入によりユーザー認証情報を一元的に管理できるため、不正アクセスのリスク低減やアクセスログの可視化も可能になります。これにより、ユーザー操作の追跡や権限管理の強化を通じて、ガバナンスの向上やコンプライアンス対応にもつながります。

IDaaSによるSSO(シングルサインオン)のリスクと対策

IDaaSを通じたSSO(シングルサインオン)は、便利で効率的な仕組みですが、同時に特有のリスクも伴います。最大のリスクは、IDaaS自体のIDが不正に取得された場合、連携しているすべてのサービスにアクセスされてしまう点です。このリスクを軽減するには、MFA(多要素認証)の導入が欠かせません。また、「すべてのアクセスを信頼しないこと」を前提とする「ゼロトラスト」の考え方を取り入れ、すべてのアクセスを常に検証する仕組みを整えることも有効です。

ただし、ゼロトラストをどのように導入し、何を基準に安全な運用と見なすかなど、導入前に立ち止まって考えるべき点は多くあります。だからこそ、単なる機能比較にとどまらず、「どのように活用するのか」という視点がより重要です。

MFA、ゼロトラストについてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

IDaaSを導入する3つのメリット

IDaaSを導入することで、企業には「セキュリティの強化」「業務効率の向上」「コストの削減」という3つの主要なメリットがあります。ここでは、それぞれのメリットについて詳しく見ていきましょう。

  • セキュリティの強化
  • 業務効率の向上
  • コスト削減の可能性

セキュリティの強化

IDaaSを導入するメリットの1つは、認証とアクセス管理におけるセキュリティの強化です。
特に、MFA(多要素認証)を活用することで、ID・パスワードのみに依存しない認証体制を構築できます。スマートフォンを用いたワンタイムパスワードや生体認証などを組み合わせれば、第三者による不正アクセス、なりすましを効果的に防止できます。加えて、ユーザーごとに必要最低限のアクセス権限を設定することで、仮にあるユーザーアカウントへの不正アクセスが発生した場合でも、影響範囲を限定し、被害を最小限に抑えることが可能です。

さらに、IDaaSにはアクセスログの監視・記録機能があり、異常な操作をリアルタイムで検知して対応できます。これにより、不正アクセスの早期発見や運用ポリシーの見直しといったセキュリティ対策を継続的に行える体制が構築され、企業全体の情報漏洩、不正利用のリスクを低減できます。

業務効率の向上

業務効率が向上することも、IDaaSを導入するメリットです。
IDaaSは、業務効率を高めるための有効な基盤であり、認証やアカウント管理を自動化することでIT部門の作業負担を軽減し、ヒューマンエラーの防止にもつながります。特に、リモートワーク環境では、安全な通信経路を確保する手段のVPNのような煩雑な接続設定が不要になり、従業員は自宅や出先から業務システムまたは社内ネットワークへスムーズにアクセスできるようになります。利便性の高い業務環境が整えば、従業員の満足度や生産性の向上にも役立つでしょう。

また、IDaaSによるユーザー管理の一元化により、アカウントの追加・変更・削除などの処理も効率的に行えるため、組織変更や人員の入れ替え時にもスムーズかつ迅速に対応できます。とはいえ、運用設計を誤れば、反対に混乱を招くケースもあります。どこまで自動化し、どこから人の判断を残すのか、導入にあたっての検討が大切です。

コスト削減の可能性

IDaaSを導入するメリットには、コスト削減の可能性もあります。
従来のオンプレミス型認証システムでは、サーバーやソフトウェアライセンスの導入、保守費用など、初期投資と運用コストが大きな負担となっていました。IDaaSはクラウド型のサービスであるため、初期投資を抑え、月額課金など柔軟な契約体系で運用できます。なお、多くのサービスでは無料トライアルが用意されており、事前に使用感を確認した上で導入判断が可能です。

また、多くのIDaaSサービスでは、MFA(多要素認証)やSSO(シングルサインオン)、ユーザー管理、ログ監視などの機能を用途に応じて選べるプランが提供されています。これにより、必要な機能だけを導入し、無駄なコストをかけずに運用することが可能です。自社のニーズに合った最小限の構成で始められるため、全体的なITコストの削減にもつながります。IDaaSはセキュリティ強化にとどまらず、コスト面でも無理のない運用を実現できる、実用的な仕組みといえるでしょう。

ただし、サービスごとの価格体系や拡張性には違いがあり、安易な選定は結果としてコスト増につながることもあるため注意しましょう。最終的には、自社のIT環境や利用規模に合った適切な判断が求められます。

IDaaSの導入における課題と対策

IDaaSは有用なソリューションですが、導入時にはいくつかの課題に直面することがあります。ここでは、企業がIDaaS導入時に抱えやすい代表的な課題と、それに対する現実的な対策について見ていきましょう。ただし、実際の課題は、業種・規模・システム構成によって大きく異なります。具体的な要件整理やツール選定でお悩みの方は、導入支援の専門家にお気軽にご相談ください。
ここでは、IDaaS導入における代表的な課題と対策として、下記の3つの点について解説します。

  • 一部の既存システムとの連携に課題がある
  • コスト面での懸念がある
  • トラブル時の対応に時間がかかる

一部の既存システムとの連携に課題がある

IDaaSの導入に際して、まず直面しやすい課題は、既存の業務システムや社内サービスと、必ずしもスムーズに連携できるとは限らない点です。
特に、オンプレミス環境で長年使われてきたレガシーシステムや自社独自の業務システムとの統合には、時間と高度な技術的調整が求められます。この課題を回避するためには、導入前に各システムの仕様を確認し、IDaaSとの連携可否を事前に把握することが大切です。また、ID連携用のAPIやユーザーアカウントの作成・更新・削除といった操作を自動化するプロビジョニング機能を活用することで、システム間の橋渡しが可能になります。

さらに、今後導入するサービスについてもIDaaSとの互換性を重視して選定することで、長期的な運用効率を高めることができるでしょう。

コスト面での懸念がある

コスト面の懸念も、IDaaSの導入における課題の1つです。
IDaaSはサブスクリプション型のサービスであるため、月額利用料が発生します。そのため、企業によっては「長期的にコストが膨らむのではないか」といった不安を感じる場合もあるでしょう。こうした懸念に対しては、まず最小限の範囲でスモールスタートし、実際の運用効果を確認しながら段階的に導入範囲を拡大する方法が有効です。これにより初期コストを抑え、投資対効果を明確にできます。

また、ベンダーごとにライセンス体系(ユーザー数課金、機能別課金、利用量ベース課金など)は異なるため、自社の利用状況に合ったプランを選ぶことが大切です。

トラブル時の対応に時間がかかる

IDaaSの導入における課題には、トラブル時の対応に時間がかかる点もあります。
IDaaSは認証基盤そのものにあたるため、トラブルが発生した場合の影響は大きく、業務の停止につながるリスクがあります。例えば、認証システムの障害によりログインできなくなると、業務全体が滞ってしまうでしょう。このような事態を防ぐためには、事前に対応フローをマニュアル化し、関係部署との協力体制を整備することが大切です。緊急時の対応手順を文書化し、定期的な訓練を通じて、迅速な対応と復旧が可能になります。

また、IDaaSの監視ログを活用して異常の兆候を早期に検知できる体制を構築し、平時からの備えが、企業の信頼性と事業継続性の確保につながります。

IDaaSの選び方

IDaaSを導入する際には、自社のIT環境やセキュリティ要件に適した製品を選ぶことが重要です。導入後に「機能が不足していた」「投資が過剰だった」といった事態を避けるためにも、事前の検討が欠かせません。選定時の主なチェックポイントは以下のとおりです。

IDaaSを選ぶ際の主なチェックポイント

  • 必要な機能がそろっているか(SSO、MFA、アクセス制御、ログ監視など)
  • 自社のクラウド環境やオンプレミス環境との親和性が高いか
  • UIやUXが直感的で操作しやすいか
  • 管理者とユーザーの両方にとって利便性が高い設計か
  • サポート体制が充実しており、障害対応において信頼性が高いか
  • 将来的な拡張性や他ツールとの連携が可能か

さらに、ライセンス体系や契約条件の確認も大切です。月額課金か年間契約か、ユーザー単位なのか、無料トライアルがあるかなどを比較することで、コストの見積もりや比較がしやすくなります。

例えば、「JumpCloud」は中堅・中小企業を中心に人気のあるIDaaS製品で、SSO(シングルサインオン)やMFA(多要素認証)、クラウドディレクトリ、デバイス管理機能などを統合的に提供しています。また、Windows、macOS、Linuxといった複数のOSに対応し、マルチクラウドやハイブリッド環境でも利用可能なのが特徴です。

このように、製品ごとの特性を把握した上で、自社のIT戦略やセキュリティポリシーと整合性があるかを確認し、最適なソリューションを選定することがIDaaS導入を成功させる重要なポイントとなります。

IDaaSで企業の信頼性を高める一歩を踏み出そう

IDaaSは、現代のビジネス環境で不可欠なID認証基盤の1つです。クラウド上でIDとアクセス管理を一元化できるため、セキュリティの強化と業務効率の向上を同時に実現できます。なお、SaaSの利用拡大やリモートワークの常態化により、従来のID管理方法では対応しきれない課題が浮き彫りになっています。こうした背景から、IDaaSの導入は、企業にとって避けて通れない選択肢となっているのです。

また、IDaaSは、SSO(シングルサインオン)やMFA(多要素認証)、ログ監視といった機能を通じてゼロトラストの実装にも役立ちます。一方で、サービスとの連携性や運用コスト、トラブル対応といった課題もあるため、導入前には慎重な検討が必要です。情報セキュリティ対策の強化や業務の持続性を高め、企業の信頼性をさらに向上させるためにも、自社にとって最適なIDaaSの導入に向け、まず一歩を踏み出しましょう。