企業の情報システム部門に携わる方々は、日々多様なサイバー攻撃に対するセキュリティ対策を検討していることでしょう。その中でも近年注目されているのが「DLLサイドローディング」という手法です。これはWindows特有のライブラリ読み込み順序を悪用することで、正規のアプリケーションに見せかけた不正なDLLを実行させようとする攻撃方法を指します。攻撃者にとっては比較的簡単にマルウェアを実行できる反面、被害に遭った企業にとってはバックドアの設置やシステム権限の奪取など深刻な被害をもたらすリスクが高まります。本記事では、DLLサイドローディングの概要やその仕組み、具体的なリスク、さらに企業として講じるべき包括的な対策について解説していきます。
DLLサイドローディングとは
DLLサイドローディングは、Windows OSで行われるダイナミックリンクライブラリ(DLL)の読み込み順序の仕組みを悪用した攻撃手法の一種です。Windowsでは、特定のフォルダーやシステムディレクトリを探索してからDLLをロードするというルールが存在しますが、攻撃者はこのルールをうまく利用し、正規のアプリケーションと同じフォルダーに置かれた悪意あるDLLを実行させようとします。正規アプリケーションが起動した際に、本来読み込まれるはずの正規DLLではなく、攻撃者が用意した不正DLLが先に読み込まれてしまうことで、結果的にマルウェアが動作するのです。
このとき、ユーザーやセキュリティソフトから見ると、あくまで正規のアプリケーションが動いているように見えるため、不正DLLの存在に気づきにくいという特徴があります。攻撃者が巧妙にフォルダーの構成やファイル名を偽装することで、セキュリティ製品による検知をすり抜ける手口も存在するため、従来のファイル検知型ウイルス対策ソフトだけでは十分に防ぎきれない場合があります。
DLLハイジャッキングとの違い
DLLサイドローディングと似た概念として「DLLハイジャッキング」が挙げられます。いずれも正規のDLLを差し替えて不正なDLLを動かすという点で共通していますが、DLLハイジャッキングはアプリケーションが使用する特定のDLLを積極的に置き換えて攻撃を行うケースを指すことが多いとされます。一方、DLLサイドローディングは、アプリケーションがDLLを探す検索パスの性質を狙い、正規DLLと同名の不正DLLを先に読み込ませる手法に焦点が当てられます。
どちらの手法もDLLの読み込みにまつわるWindowsの仕組みを悪用しているため、区別があいまいな場合もありますが、攻撃者が注目しているのは「アプリケーションがどのフォルダーを優先的に探索するのか」や「DLLのファイル名がどう扱われるのか」といった点です。企業の情報システム部門としては、DLL読み込み順序を理解し、その弱点を突かれないように対策を講じる必要があります。
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DLLサイドローディングがもたらすリスク
マルウェア感染と情報漏えい
DLLサイドローディングによって不正DLLが読み込まれると、システム内部で攻撃者のマルウェアが起動してしまいます。たとえば、ランサムウェアの一部をDLLとして偽装することで、ユーザーが意図せずに実行したアプリケーション経由で暗号化処理が開始されるケースも考えられます。また、バックドア型のマルウェアを仕込まれた場合、攻撃者はネットワーク内部へ持続的にアクセスし、情報収集や追加的な攻撃を行う余地を得ることになります。
さらに、不正DLLが機密情報を盗み出す機能を備えている場合、社外へデータを送信する窓口となり、取引先や顧客の情報が漏えいするリスクが高まります。被害が明るみに出る前に長期間にわたって機密情報が盗まれるケースもあり、早期発見ができないと企業としては大きなダメージを被る恐れがあります。
業務停止や信頼失墜への影響
不正DLLによるマルウェア感染が深刻化すれば、ネットワーク全体や業務システムが停止し、企業活動が一時的にストップするリスクがあります。重要なファイルやサーバーが暗号化されれば、復旧のために多大なコストや時間を費やすこととなり、その間の生産性は大きく損なわれるでしょう。
また、機密情報や個人情報が漏えいした場合には、顧客や取引先の信用を大幅に失い、社会的・法的にも大きな問題へと発展する可能性があります。こうした被害が報道などを通じて公になると、企業ブランドのイメージ悪化は免れません。サイバー攻撃の被害は表面化しにくい部分もありますが、いったん大規模なインシデントに発展すると経営にも深刻なダメージを与えるのがDLLサイドローディングを含むサイバー攻撃の恐ろしさです。
DLLサイドローディングへの対策
🟢OS・ソフトウェアの設定とアップデート
DLLサイドローディングによる攻撃を防ぐには、まずWindowsの検索パスやライブラリ読み込み動作を理解し、それらを最適化する設定を行うことが重要です。たとえば、署名されたDLL以外の読み込みを制限したり、安全性が確認されたフォルダーのみをDLLの読み込み対象とするなどの対策が挙げられます。
さらに、OSやアプリケーションのパッチを常に最新状態に保つことも不可欠です。開発元から提供されるアップデートには、しばしばこうしたライブラリの読み込みに関する脆弱性を修正する内容が含まれます。不要なソフトウェアや古いバージョンのアプリケーションが残っていると、DLLサイドローディングの入口になりやすいため、定期的な棚卸しを行い、利用実態に合わせてアンインストールやアップデートを行うよう心がけましょう。
🟢セキュリティ製品と監視体制の強化
DLLサイドローディングを検知しやすくするには、企業全体のセキュリティ体制を多角的に強化する必要があります。たとえば、ホワイトリスト方式のセキュリティ製品を導入することで、許可されたDLLやアプリケーション以外の実行をブロックするアプローチが考えられます。
また、EDR(Endpoint Detection and Response)ツールを活用すると、端末ごとの怪しい挙動をリアルタイムで把握し、不正DLLの読み込みが行われたタイミングでアラートを発することが可能になります。加えて、ネットワーク監視やファイル挙動分析を組み合わせれば、外部と不審な通信をしていないかや、特定のフォルダーに同名DLLが連続して配置されていないかなど、攻撃者の行動パターンを早期に捉えることができます。こうした多層的な対策を講じることで、DLLサイドローディングのリスクを大幅に抑えられるでしょう。
さいごに
DLLサイドローディングは、Windowsのライブラリ読み込み手順を逆手に取った攻撃手法であり、企業のシステムに深刻な被害をもたらす可能性があります。実行ファイル自体は正規アプリケーションである場合が多いため、不正DLLが背後で稼働していても気づきにくく、結果的にマルウェア感染や情報漏えいなどの被害を拡大させる原因となります。
対策としては、まずはOSやソフトウェアの設定・アップデートを適切に行い、ライブラリ検索パスを安全に保つことが重要です。さらに、ホワイトリスト方式の導入やEDRなどのセキュリティ製品による多層的な保護を組み合わせることで、不審なDLLの読み込みを早期に検知・ブロックし、攻撃を食い止めることが可能になります。サイバー攻撃は日々巧妙化しており、DLLサイドローディングに限らず、さまざまな手法が登場しています。企業としては攻撃の最新動向を常にキャッチアップしながら、包括的なセキュリティ対策を実装していくことが何よりも欠かせないといえるでしょう。
サイバー攻撃対策をするなら
✅未知の攻撃にも対応できるセキュリティツールの導入
サイバー攻撃に対処するためには、最新のセキュリティツールの導入が不可欠です。特に、ランサムウェアやゼロデイ攻撃に対しては、従来のウイルス対策ソフトでは不十分であり、AIを活用したEDR(Endpoint Detection and Response)や次世代ファイアウォールの導入が効果的です。これらのツールは、未知の脅威にも迅速に対応でき、攻撃が発生する前にシステムを保護することが可能です。
✅セキュリティについて従業員教育を行う
サイバー攻撃対策を効果的に実行するためには、技術的なツールの導入だけでなく、従業員一人ひとりのセキュリティ意識を高めることも重要です。多くのサイバー攻撃は、従業員の不注意や不正な操作によって引き起こされるケースが少なくありません。特に、フィッシングメールや悪意のあるリンクをクリックしてしまうことによる情報漏えいは防止可能なものです。定期的なセキュリティ研修やシミュレーションを行うことで、従業員が最新の攻撃手法を理解し、適切な対応を取れるようになります。
✅セキュリティ対策のガイドラインを策定する
効果的なセキュリティ対策を実施するためには、企業ごとに具体的なセキュリティガイドラインを策定することが求められます。このガイドラインでは、データの取扱い方法、アクセス権の設定、アプリケーションの使用制限など、業務に関連するセキュリティポリシーを明確に定義します。従業員が守るべきセキュリティ基準を文書化することで、全員が一貫したセキュリティ対策を実施できる環境を構築します。
また、ガイドラインを定期的に見直し、最新のサイバー攻撃手法に対応するために必要な変更を加えることも重要です。企業の業務内容や使用する技術の変化に応じて、適切にセキュリティポリシーを更新することで、サイバー攻撃に対する防御力を維持できます。
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