1億円超えの被害を出さないための先行投資、国内外で相次ぐ放送局を標的にした被害を教訓に理想的なセキュリティ環境を実現
少人数体制でも安心運用を可能にしたEDR+SOCサービスの導入効果
株式会社長野放送

- 社名
-
株式会社長野放送
- 従業員数
- 82名
- 事業内容
- 長野県内を対象としたテレビジョン放送、番組制作、イベント運営
地域に密着した情報を24時間365日届ける放送局にとって、サイバー攻撃による放送停止は絶対に避けなければならないリスクです。近年、放送業界でもランサムウェア被害が相次いでおり、1億円を超える損失を被るケースも後を絶ちません。こうした中、長野県内のフジテレビ系列放送局である株式会社長野放送様は、放送局を標的にした被害事例を教訓に、従来のアンチウイルスソフトからEDR(Endpoint Detection and Response)への移行を決断。わずか2名の情報システム部門でも効果的な運用を実現しています。
今回は、同局の情報システム部門の担当者お二人に、セキュリティ強化の検討経緯から導入効果まで、詳しくお話を伺いました。
「お守り」から「実効性のある対策」への転換を決めた理由
まず、御社の事業内容と情報システム部門の役割について教えてください。
鈴木様(以下、鈴木):
弊社はフジテレビ系列の放送局として長野県内の皆様に情報を提供しています。地域に密着したニュースや情報番組を中心に県民の皆様の生活に役立つ放送を心がけています。
情報システム部門の役割は、パソコンやサーバーの更新・管理およびネットワークの構築・管理が主な業務です。セキュリティ対策の企画・実施も担当していますが、実は部門全体で2名という少人数体制で運営しています。日々のヘルプデスク対応も多く、「パソコンが動かない」「操作がわからない」といった問い合わせにも対応しながら、放送業務を支えています。
セキュリティ強化に取り組むことになった背景を教えてください。
武井様(以下、武井):
もともと弊社では、オンプレミス型のアンチウイルスソフトを導入していましたが、正直なところ「お守り的」な要素が強く、念のために入れているという感覚でした。定期的なパターンファイルの更新と展開くらいで、日常業務として特別な作業もありませんでした。
しかし、同業他社でサイバー攻撃による大きな被害が発生したことでセキュリティ強化への意識が高まりました。身近な放送局、それも我々と同じような規模の局が被害に遭ったことで、「人ごとではない」という強い危機感を持ちました。サイバー攻撃は企業規模に関係なく襲ってくるということを痛感したんです。
鈴木:
さらに、社内PCの持ち出し要望への対応も課題でした。コロナ禍でテレワークの必要性は認識していましたが、セキュリティ面での不安から本格導入には至っていませんでした。柔軟な働き方を実現するためにも、オンプレミス型からクラウド型への移行が必要だと判断しました。


徹底的な比較検証と他社事例で見えてきたEDR+SOCの必要性
製品選定はどのように進められたのでしょうか?
鈴木:
正直我々のような地方に位置する会社だと、セキュリティへの専門的な知見を持った人や企業が周りにほとんどいないんですね。それならば実際に話を聞く場に出向こうと思い、まず展示会に足を運び、8~9社ほどの製品を比較検討しました。展示会では実際にメーカーの方と話をして初めて知る製品も多くありました。
武井:
さらに付け加えると、同じフジテレビ系列放送局で最近セキュリティを強化された担当の方にお話を伺いました。なかなかメーカーさんや営業の方からでは聞けない、実務の具体的な部分までお聞きできたのは選定の上ではとても大きかったと感じています。
そしてその後、3社に絞り込んでデモやトライアルを実施しました。その中で「ソフトの軽快さ」を一番重視しました。セキュリティツールが原因で業務が滞っては本末転倒ですから、実際にウイルスを検知させる実験も行い、評価表を作ってかなり厳密に検知率や対応速度を比較検証しましたね。
EDRとSOCサービスの導入を決めたのはどのような理由からですか?
武井:
当初はサーバーやネットワークの強化も思いついたんですが、費用が高額であることに加えて対策の選択肢が膨大にあることが踏み込めない理由でした。結局狙われるのは各パソコンであるという基本的なところに立ち戻って、エンドポイントのセキュリティ強化を優先的に行う必要があると考えEDR導入を推進することに決めました。
また実は最初、SOCサービスは必要ないのではないかという意見もありました。コスト面での懸念もありましたし、自分たちでも対応できるのではないかという漠然とした印象もありました。
しかし、同じ系列放送局の担当者から「SOCサービスがあると本当に楽」という実際の声を聞いて考えが変わりました。同じ2名体制で運用している他局の方から、「検知の内容を理解して次の対策を考えるのは、専門知識がないと現実的に難しい」という率直な意見をもらってSOCサービスの導入を本格的に検討し始めました。
水上(アクト):
EDR製品は様々なアラートを出しますが、それが本当に攻撃なのかどうかの判断は簡単ではありません。セキュリティ専門の人間なら1時間でできることも、専門でない方だと3倍10倍の時間がかかってしまうことがあります。特に少人数体制の組織様にはSOCサービスは必須だとお勧めしています。


予想以上にスムーズだった導入と変わらない日常業務
導入の際に経営層への説明では、どのような点を強調されましたか?
鈴木:
近年発生したサイバー攻撃の被害額や復旧までの工数を具体的に説明しました。特に、2名という少人数体制の部署で約200ライセンスを管理する状況を考えると、専門家のサポートは不可欠だという点も強調しました。こうした被害を未然に防ぐための投資として説明し、理解を得ることができました。
水上(アクト):
被害の金額に関して直近聞いたのは、ある小規模のクリニックで復旧に1億2000万円かかったという事例を伺いました。そのような事例は留まることを知らない状況になっていて、単純な金額比較をして安いからという理由だけでアンチウイルスソフトを選択している会社は非常に危険な状態と言えます。正直、いくら安くてもセキュリティ的に効果がないものは何の意味もないんですね。ですので検討される方にはきちんとパフォーマンス部分での評価をしてもらうことを強調しています。その辺りをお二方が丁寧にご説明されたので、長野放送様の上層部の方々もご納得できたのではないでしょうか。
導入プロセスはどのように進みましたか?
武井:
トライアル期間を約2週間、その後の検討で約1か月、導入決定後はまず5~10台で1週間ほど様子を見て、その後約1か月かけて全社展開しました。トータルで約4か月かけて導入をしました。
一番驚いたのはこちらが手を動かして設定する作業がほとんど必要なかったことです。当初は複雑な設定作業を覚悟していましたが、実際に我々が行ったのは業務用アプリケーションのホワイトリスト登録くらいで、あとはアクトさんのSOCチームにお任せで「本当にこれだけでいいの?」というくらい簡単でした。
社員の方々からの反応はいかがでしたか?
武井:
何も声が上がりませんでしたね笑。いつの間にか入っているという感じで、気づいていない社員もいるんじゃないでしょうか。PCが重くなったという苦情もゼロです。ユーザーには何もさせない形で導入できたので業務への影響は全くありませんでした。


安心感と業務効率化を同時に実現
導入後の効果について教えてください。
武井:
一番大きいのは「安心感」です。実際に大きな事案は発生していませんが、検知があった際は30分以内にSOCチームからメールで「こういう内容なので問題ありません」といった連絡が来ます。導入前はたとえ検知があったとしても、それが何なのか安全なのか危険なのか、ネットで調べても明確な答えが得られず漠然と対応していました。その時間と不安がなくなったのは非常に大きいです。
鈴木:
また、脆弱性の通知やファームウェアのアップデートなど、身の回りでできることにもより注意を払うようになりました。特にVPNやルーターなど、ネットワーク機器の脆弱性は狙われやすいと聞いていたので優先的に対応するようになりました。
水上(アクト):
お客様から「運用負荷がほとんどない」と言っていただけることが多く、大変ありがたいです。セキュリティの世界はニッチすぎて、IT部門の方でも素早く答えにたどり着くのは難しい。そういったところで弊社のSOCチームがお役に立てているようで光栄です。
より強固なセキュリティ環境へ向けての展望
今後セキュリティを強化していきたい部分はどのようなところでしょうか?
鈴木:
社員のスマートフォンへの対策が課題です。テザリングでPCをネットに接続することもあるので、モバイル端末のセキュリティも強化したいと考えています。
また、編集室など放送設備のセキュリティも重要です。これまで外部ネットワークから隔離していましたが、ソフトウェアのアップデートなどで接続が必要になるケースが増えています。止められない基幹システムとのバランスを取りながら、段階的に対策を進めていく予定です。


まとめ:「何も起きない」ことの価値
放送という公共性の高い事業において、サイバー攻撃による放送停止は社会的影響が極めて大きい事態です。今回の事例は、国内外で相次ぐ放送局を標的にした被害を教訓に、早期に対策を講じたことで「何も起きない」状態を維持している好例といえます。
特に注目すべきは、わずか2名という少人数体制でも、適切な製品選定とSOCサービスの活用により、高度なセキュリティ運用を実現している点です。「お守り」的なアンチウイルスソフトから、実効性のあるEDR+SOCへの移行は、コスト増を伴いますが、被害を受けた際の損失を考えれば、極めて合理的な判断といえるでしょう。
また、導入のスムーズさも印象的でした。複雑な設定や運用の手間を懸念する企業も多いですが、実際には「拍子抜けするほど簡単」だったという声は、これから導入を検討する企業にとって心強い情報となるはずです。
セキュリティ対策において「何も起きない」ことこそが最大の成功。この事例は、限られたリソースでも先手の対策により、安心して本業に専念できる環境を構築できることを示しています。特に、個人情報や機密情報を扱う企業、社会インフラを担う企業の皆様には、ぜひ参考にしていただきたい事例です。
自社のセキュリティへの不安や最新の対策について興味がある方は、ぜひお気軽にアクトへご相談ください。
※掲載内容は取材当時のものです。
本事例を支援したアクトは、経済産業省が認定する「情報処理支援機関(スマートSMEサポーター)」です。
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