サイバー攻撃の手法は進化を続け、企業が守るべき情報資産に対する脅威も増大しています。その中で「バージョンロールバック攻撃(Version Rollback Attack)」は、特定のプロトコルやアプリケーションが持つ互換性や脆弱性を悪用した高度な攻撃手法です。この攻撃は、システムやソフトウェアを意図的に古いバージョンへとダウングレードさせることで、すでに修正されている脆弱性を再び利用可能な状態にすることを目的としています。

この攻撃手法は、最新のセキュリティアップデートを適用しているだけでは十分ではない場合があり、後方互換性やアップデートの管理が不十分な環境では特に大きなリスクとなります。本記事では、バージョンロールバック攻撃がどのように行われるのか、その仕組みや企業が取るべき効果的な対策について網羅的に解説します。

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バージョンロールバック攻撃とは

バージョンロールバック攻撃とは、特定のシステムやソフトウェア、通信プロトコルが持つ後方互換性を悪用し、対象を意図的に古いバージョンに戻すことで、過去の脆弱性を再利用する攻撃手法です。この攻撃の目的は、最新バージョンでは修正されたセキュリティホールを意図的に復活させ、攻撃者がそれを利用してシステムを侵害することです。

多くのソフトウェアやプロトコルは、ユーザーの利便性や互換性を考慮し、古いバージョンのサポートを続けています。しかし、この「後方互換性」という性質が、攻撃者にとって格好の標的となります。特に、TLS(Transport Layer Security)やSSL(Secure Sockets Layer)などの通信プロトコル、さらにはアプリケーションのバージョン管理システムが狙われることが一般的です。

バージョンロールバック攻撃が成立するには、以下の条件が満たされている必要があります。

後方互換性の存在
多くのプロトコルやソフトウェアが過去のバージョンとの互換性を維持する設計を持っているため、古いバージョンへのダウングレードが可能になります。

認証プロセスの脆弱性
通信やシステムのバージョン交渉が適切に保護されていない場合、攻撃者が古いバージョンを指定して脆弱性を再現する可能性があります。

適切なセキュリティ設定の欠如
システム管理者が最新バージョンへの強制更新や古いプロトコルの無効化を行っていない場合、攻撃が容易になります。

アップデート管理の不備
定期的なアップデートが行われていないシステムや、最新バージョンの適用が部分的にしか行われていない環境では、バージョンロールバック攻撃の成功率が高まります。

バージョンロールバック攻撃の仕組み

🔴通信プロトコルへの攻撃

通信プロトコルは、バージョンロールバック攻撃の主なターゲットの一つです。特にTLSやSSLなどの暗号化プロトコルは、古いバージョンのサポートを維持している場合が多く、これが攻撃者に悪用される可能性があります。

具体例: POODLE攻撃
POODLE(Padding Oracle On Downgraded Legacy Encryption)は、SSL 3.0の脆弱性を悪用した有名なバージョンロールバック攻撃です。この攻撃では、暗号化された通信データが解読され、クレジットカード情報やパスワードなどが盗まれるリスクが生じました。

攻撃のプロセス
攻撃者は通信の途中に介入し、プロトコルのバージョン交渉を操作します。例えば、最新のTLS 1.3から古いTLS 1.2やSSL 3.0にダウングレードさせ、既知の脆弱性を利用してデータを盗み出します。

🔴アプリケーションソフトウェアへの攻撃

バージョンロールバック攻撃は、通信プロトコルだけでなく、アプリケーションソフトウェアにも適用されます。攻撃者は、ソフトウェアの更新プロセスを操作し、古いバージョンをインストールさせることで脆弱性を利用します。

被害内容
古いバージョンでは適用されていないセキュリティパッチが原因で、ランサムウェアやトロイの木馬を含むマルウェアが拡散する可能性があります。

攻撃のプロセス
攻撃者が偽のアップデート通知を送信し、ユーザーが古いバージョンをインストールするよう誘導します。その後、攻撃者はその脆弱性を利用してシステムへのアクセスを試みます。

バージョンロールバック攻撃によるリスク

⚠️情報漏洩とプライバシー侵害

バージョンロールバック攻撃が成功すると、暗号化が解除されたり、脆弱なアルゴリズムが利用されることがあります。その結果、以下のようなリスクが発生します。

・盗まれた情報を基にしたさらなる攻撃(例: ソーシャルエンジニアリング)
・攻撃者によるデータの盗聴
・個人情報や業務機密の流出

⚠️サービスの停止や業務妨害

攻撃者が旧バージョンの脆弱性を利用してシステムを制御すると、サービスの停止や不正利用が発生する可能性があります。例えば、攻撃者がリソースを悪用して分散型サービス拒否(DDoS)攻撃を実行する場合があります。

⚠️法的および経済的影響

法的責任: データ流出が発生した場合、個人情報保護法やGDPRに違反する可能性があります。
経済的損失: 対策や補償費用が発生し、長期的な収益に悪影響を与える可能性があります。

バージョンロールバック攻撃への対策

バージョンロールバック攻撃は、高度な知識と技術を持つ攻撃者によって仕掛けられるため、効果的な対策を講じることが不可欠です。このセクションでは、企業が取るべき具体的な防御策を詳しく解説します。これらの対策は、単一のソリューションに依存するのではなく、複数の層で防御を構築する「ディフェンスインデプス」の考え方に基づいています。

🔴最新バージョンの維持と管理

最新バージョンの維持は、バージョンロールバック攻撃に対抗するための基本中の基本です。ソフトウェアやプロトコルの更新を適切に管理することで、既知の脆弱性を悪用されるリスクを大幅に減らすことができます。

更新履歴の監視
更新が適切に行われているかどうかを確認するため、更新履歴を監視し、異常があれば即座に対処する体制を整備します。

定期的なアップデート
企業のIT部門は、すべてのソフトウェア、ファームウェア、通信プロトコルの更新をスケジュール化し、最新バージョンを維持する必要があります。特に、TLS 1.3や最新の暗号化プロトコルを導入することで、古いバージョンの脆弱性を無効化できます。

自動更新の導入
更新作業を手動で行うと、担当者のミスや忘れが原因でセキュリティホールが放置される可能性があります。自動更新機能を有効にすることで、このリスクを回避できます。

🔴後方互換性の無効化

バージョンロールバック攻撃の多くは、後方互換性を悪用します。このため、古いバージョンのサポートを無効化することが効果的な対策となります。

デバイスやアプリケーションの互換性テスト
後方互換性を無効化した際に、業務に影響を与えないかを確認するため、定期的に互換性テストを実施します。

不要なプロトコルの無効化
システム設定で古いプロトコル(例: SSL 3.0やTLS 1.0)を無効化し、新しいバージョンのみに対応させます。特に、サーバーとクライアントの両方で最新の暗号化アルゴリズムを利用する設定を徹底する必要があります。

暗号スイートの管理
弱い暗号スイート(例: RC4やDES)の使用を禁止し、AESやChaCha20などの強力な暗号スイートを採用します。

🔴バージョン交渉のセキュリティ強化

通信プロトコルやソフトウェアが行うバージョン交渉のプロセスを保護することは、バージョンロールバック攻撃を防ぐ重要な手段です。

固定バージョンの使用
特定のプロトコルやアプリケーションにおいて、最も安全とされるバージョンを固定して利用することも有効な手段です。

Secure Renegotiationの実施
TLSなどのプロトコルでは、バージョン交渉の際に「Secure Renegotiation」を適用することで、攻撃者が通信に介入するリスクを大幅に減らすことができます。

中間者攻撃(MITM)の防止
バージョン交渉が行われる通信経路を保護するために、ネットワーク上の不審な挙動を検知するIDS(侵入検知システム)やIPS(侵入防止システム)を導入します。

🔴アップデートプロセスのセキュリティ強化

アップデートプロセスそのものを保護することで、偽のアップデートを利用したバージョンロールバック攻撃を防ぐことができます。

デジタル署名の活用
ソフトウェア更新時にデジタル署名を使用することで、更新ファイルが正規のものであることを確認できます。これにより、攻撃者が偽のアップデートを配布するリスクを排除します。

信頼できる配布チャネルの利用
アップデートを公式サイトや信頼できるプロバイダーからのみ取得するように徹底し、第三者の配布チャネルを利用しないポリシーを導入します。

更新通知の認証
更新通知が正規のものであることを確認するため、認証プロセスを強化します。例えば、マルチファクター認証(MFA)を利用することが有効です。

サイバー攻撃対策をするなら

未知の攻撃にも対応できるセキュリティツールの導入

サイバー攻撃に対処するためには、最新のセキュリティツールの導入が不可欠です。特に、ランサムウェアやゼロデイ攻撃に対しては、従来のウイルス対策ソフトでは不十分であり、AIを活用したEDR(Endpoint Detection and Response)や次世代ファイアウォールの導入が効果的です。これらのツールは、未知の脅威にも迅速に対応でき、攻撃が発生する前にシステムを保護することが可能です。

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セキュリティについて従業員教育を行う

サイバー攻撃対策を効果的に実行するためには、技術的なツールの導入だけでなく、従業員一人ひとりのセキュリティ意識を高めることも重要です。多くのサイバー攻撃は、従業員の不注意や不正な操作によって引き起こされるケースが少なくありません。特に、フィッシングメールや悪意のあるリンクをクリックしてしまうことによる情報漏えいは防止可能なものです。定期的なセキュリティ研修やシミュレーションを行うことで、従業員が最新の攻撃手法を理解し、適切な対応を取れるようになります。

セキュリティ対策のガイドラインを策定する

効果的なセキュリティ対策を実施するためには、企業ごとに具体的なセキュリティガイドラインを策定することが求められます。このガイドラインでは、データの取扱い方法、アクセス権の設定、アプリケーションの使用制限など、業務に関連するセキュリティポリシーを明確に定義します。従業員が守るべきセキュリティ基準を文書化することで、全員が一貫したセキュリティ対策を実施できる環境を構築します。

また、ガイドラインを定期的に見直し、最新のサイバー攻撃手法に対応するために必要な変更を加えることも重要です。企業の業務内容や使用する技術の変化に応じて、適切にセキュリティポリシーを更新することで、サイバー攻撃に対する防御力を維持できます。

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