クラウドネイティブ技術が急速に進化し、多くの企業がその利点を最大限に活用する一方で、セキュリティの課題が顕在化しています。従来のセキュリティアプローチでは、クラウド環境特有のリスクに対応しきれず、複雑化するITインフラを十分に保護することが困難です。こうした背景の中で注目されているのが、CNAPP(Cloud Native Application Protection Platform)という新しい概念です。
本記事では、CNAPPの基本的な定義からその重要性、具体的な導入メリット、そして企業がこれを活用する際の注意点までを幅広く解説します。
CNAPPとは?
CNAPPとは、「Cloud Native Application Protection Platform」の略称であり、クラウドネイティブな環境におけるセキュリティを一元的に管理するための包括的なプラットフォームを指します。この概念は、米国の調査会社ガートナーが提唱したもので、クラウド環境でのセキュリティ課題を解決するために特化しています。従来のセキュリティツールは主にオンプレミス環境に適応して設計されていましたが、クラウドの持つ動的で複雑な性質を考慮するには限界がありました。CNAPPはその欠点を補完し、クラウド環境に最適化されたセキュリティアプローチを提供するものです。
CNAPPは単なるセキュリティツールの集合体ではなく、クラウドネイティブアプリケーションのライフサイクル全体を保護する一貫したアプローチを実現します。例えば、アプリケーションの開発段階から本番運用に至るまで、セキュリティが一貫して管理される仕組みを提供することで、セキュリティリスクを低減しつつ、運用の効率化を図ることが可能です。
✅CNAPPの特徴
CNAPPの特徴の一つとして、複数のセキュリティ機能が統合されている点が挙げられます。その中には、クラウドセキュリティポスチャ管理(CSPM)、クラウドワークロード保護(CWPP)、クラウドインフラストラクチャエンタイトルメント管理(CIEM)などが含まれます。また、これらに加えて、Kubernetes環境のセキュリティ管理や、Infrastructure as Code(IaC)のセキュリティスキャン機能も統合されています。これらの機能を一つのプラットフォームで提供することで、管理の効率性を高めるだけでなく、セキュリティの一貫性を確保します。
CNAPPが注目される背景
近年、企業のITインフラは急速にクラウド環境へ移行しており、その結果、従来のオンプレミス環境では見られなかった新たな課題が浮上しています。SaaSやPaaS、IaaSといった異なるクラウドサービスを組み合わせて利用するケースが一般化する中で、クラウド環境は以前にも増して複雑化しています。特に、複数のクラウドプロバイダーを利用するマルチクラウド環境や、オンプレミス環境とクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウド環境の採用が増えており、これがセキュリティの課題をさらに深刻なものにしています。
例えば、従来のオンプレミス向けセキュリティツールは、クラウド環境の持つ動的な性質に対応しきれません。クラウドでは、リソースが短時間で作成され、消滅することが一般的であり、これに伴い、セキュリティの監視範囲も絶えず変化します。CNAPPはこのようなクラウド特有の課題に対処するために設計されており、セキュリティリスクをリアルタイムで検知し、迅速に対応する仕組みを提供します。
さらに、クラウドネイティブ技術の進化もCNAPPが注目される理由の一つです。コンテナ化やマイクロサービスアーキテクチャ、サーバーレスコンピューティングといった技術が普及する中で、従来のセキュリティアプローチではこれらの新技術特有のリスクに対応しきれません。これらの技術は、それぞれに独自のセキュリティ要件を持っており、これを包括的にカバーするためには、CNAPPのような統合型ソリューションが必要とされています。
CNAPPの重要性と導入メリット
【重要性】
CNAPPが重要視される理由は、現代のクラウド環境が直面する複雑なセキュリティ課題に対して、包括的かつ効果的な解決策を提供するからです。以下に、CNAPPの重要性を示す主な理由を挙げます。
- 包括的なセキュリティ管理
CNAPPは、クラウドインフラストラクチャ、アプリケーション、データ、アイデンティティなど、クラウド環境の全ての要素を一元的に管理します。これにより、セキュリティの死角を減らし、より強固な防御態勢を構築することができます。 - クラウドネイティブ環境への最適化
従来のセキュリティツールがオンプレミス環境を前提としているのに対し、CNAPPはクラウドネイティブ環境に最適化されています。コンテナ、マイクロサービス、サーバーレスなど、最新のクラウド技術特有のセキュリティリスクにも対応できます。 - 継続的なコンプライアンス確保
CNAPPは、クラウド環境のコンプライアンス状況を常時監視し、必要に応じて自動的に修正を行います。これにより、常に最新の規制要件に準拠した状態を維持することができます。 - DevSecOpsの促進
CNAPPは、開発段階からセキュリティを統合することを可能にします。これにより、開発者とセキュリティチームの連携が促進され、より安全なアプリケーションの開発が可能になります。 - 可視性の向上
CNAPPは、クラウド環境全体の可視性を向上させます。これにより、セキュリティリスクの早期発見と迅速な対応が可能になります。 - コスト効率の向上
複数のセキュリティツールを個別に導入・管理するよりも、CNAPPを導入することでコスト効率が向上します。また、自動化機能により運用コストも削減できます。 - マルチクラウド環境への対応
CNAPPは、複数のクラウドプロバイダーを利用する環境でも一貫したセキュリティ管理を提供します。これにより、マルチクラウド戦略を安全に推進することができます。
これらの理由から、CNAPPは現代のクラウドセキュリティにおいて重要な役割を果たしています。企業がクラウドの利点を最大限に活用しながら、セキュリティリスクを効果的に管理するためには、CNAPPの導入が不可欠となっているのです。
【導入メリット】
🟢現代のセキュリティ課題に対応
CNAPPが現代のセキュリティにおいて重要視される理由は、包括的なセキュリティ管理を可能にする点にあります。従来のアプローチでは、個別のツールを利用して特定のセキュリティリスクに対応していましたが、これでは全体的なセキュリティ状況を把握することが難しくなります。CNAPPは、クラウドインフラストラクチャ、アプリケーション、データ、アイデンティティといったクラウド環境の全要素を一元的に管理し、セキュリティの死角を減らします。
🟢コンプライアンスの確保
規制要件の厳格化に伴い、多くの企業がGDPRやHIPAA、PCI DSSといった国際的なセキュリティ基準を遵守する必要があります。CNAPPは、これらの規制に基づいた監査機能を提供し、企業が常に最新のコンプライアンス基準を満たすことを支援します。これにより、企業は規制違反によるリスクを軽減しつつ、監査対応にかかる労力を削減することができます。
🟢DevSecOpsの実現
また、CNAPPは開発段階からセキュリティを統合することで、DevSecOpsを促進します。これにより、開発チームとセキュリティチームの連携が向上し、セキュアなアプリケーションの迅速な開発が可能になります。特に、Infrastructure as Code(IaC)のセキュリティスキャン機能を活用することで、設定ミスや脆弱性を早期に検出し、問題が発生する前に対応することができます。
CNAPPが他のセキュリティフレームワークと異なる点
●ゼロトラストモデルとの相違
ゼロトラストセキュリティは、「誰も信頼しない」を基本理念とし、ネットワークにアクセスするすべてのエンティティに対して、常に検証を求めるセキュリティモデルです。このモデルは、主にネットワークレベルでのアクセス制御を中心に設計されており、内部・外部の脅威を問わず、アクセスするたびにユーザーやデバイスの信頼性をチェックします。一方、CNAPP(Cloud Native Application Protection Platformは、クラウドネイティブ環境全体を保護するために設計されており、そのアプローチはゼロトラストとは異なります。
CNAPPは、クラウド環境全体のセキュリティポスチャを可視化し、アプリケーションのライフサイクル全体を一貫して保護することを目的としています。具体的には、クラウドリソースの設定状態、コンテナやサーバーレスのセキュリティ、開発時のInfrastructure as Code(IaC)のチェックなど、クラウド特有の課題に対応します。ゼロトラストが主にネットワークへのアクセス制御に焦点を当てているのに対し、CNAPPはクラウド環境に特化し、クラウド全体を横断的に管理するセキュリティフレームワークである点が大きな違いです。
また、ゼロトラストではユーザー認証やアクセス権限の管理が中心となる一方で、CNAPPは脆弱性管理やコンプライアンスの維持、リアルタイムの脅威検知といった幅広いセキュリティタスクを統合的に実現します。このように、両者は目的や適用領域が異なり、補完的に利用されることも少なくありません。
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●従来型のCSPM/CWPPとの統合性
CNAPPは、従来型のセキュリティツールであるCSPM(Cloud Security Posture Management)やCWPP(Cloud Workload Protection Platform)を包括的に統合したプラットフォームとして設計されています。これにより、個別に導入されたツールの連携不足や運用の複雑さといった問題を解消し、効率的な一元管理を実現します。
CSPMは主にクラウドリソースの設定ミスを検出し、リスクを是正する役割を果たします。一方、CWPPはコンテナや仮想マシン、サーバーレス環境といったクラウド内のワークロードを保護することに特化しています。しかし、これらのツールを個別に導入する場合、それぞれのツールが提供するセキュリティ情報が分断され、全体のリスクを把握するのが難しくなることがあります。
CNAPPは、これらの課題を解決するために、CSPMやCWPPの機能を統合し、一元的なダッシュボードでセキュリティ状態を管理する仕組みを提供します。この統合により、クラウドリソース全体の可視性が向上し、リスク管理が効率化されるだけでなく、セキュリティチームの作業負担も大幅に軽減されます。
さらに、CNAPPはCIEM(Cloud Infrastructure Entitlement Management)やIaCセキュリティスキャンなど、他の重要な機能も統合しています。これにより、クラウド環境全体をシームレスに管理できるだけでなく、セキュリティの死角を最小限に抑えることが可能です。このように、従来型のCSPMやCWPPに対するCNAPPの統合性は、クラウドネイティブ環境におけるセキュリティ運用の効率を大幅に向上させる重要なポイントとなっています。
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