サイバー攻撃は日々新たな脅威が登場し、個人や企業のデジタル資産を狙っています。この記事では、クレデンシャルハーベスティングの概要、仕組み、想定される被害、そして効果的な対策について詳しく解説していきます。
クレデンシャルハーベスティングとは
クレデンシャルハーベスティングとは、サイバー攻撃者が不正な手段を用いて、ユーザーの認証情報(クレデンシャル)を収集する行為を指します。主にユーザー名とパスワードの組み合わせが狙われますが、時には多要素認証に使用されるワンタイムパスワードなども標的となります。
この攻撃手法は、フィッシング詐欺やマルウェアの配布、偽のログインページの作成など様々な方法で実行されます。攻撃者の目的は、収集したクレデンシャルを利用して、被害者のアカウントに不正アクセスすることです。これにより、個人情報の窃取、金銭的損害の発生、さらには企業ネットワークへの侵入口として悪用されるリスクがあります。クレデンシャルハーベスティングは、その手法の巧妙さと広範囲な影響力から、現代のサイバーセキュリティにおいて最も警戒すべき脅威の一つとなっています。
クレデンシャルハーベスティングの仕組み
クレデンシャルハーベスティングの仕組みは、一般的に以下のような段階を経て行われます。
- 準備段階:攻撃者は、偽のウェブサイトやログインページを作成します。これらは、正規のサイトと見分けがつかないほど精巧に作られることがあります。
- 誘導段階:フィッシングメールや偽の広告、ソーシャルエンジニアリングなどの手法を用いて、ユーザーを偽のサイトへ誘導します。
- 情報入力段階:ユーザーが偽サイトにアクセスし、認証情報を入力します。この時点で、ユーザーは自分が攻撃を受けていることに気づいていません。
- 情報収集段階:入力された認証情報は、即座に攻撃者のサーバーに送信されます。
- 不正利用段階:収集された認証情報を使って、攻撃者は様々な不正行為を行います。例えば、本人になりすましてアカウントにアクセスしたり、他のサービスでも同じ認証情報が使用されていないか試みたりします。
この一連のプロセスは、高度に自動化されていることが多く、短時間で大量の認証情報を収集することが可能です。また、攻撃者は常に新しい手法を開発し、セキュリティ対策をすり抜けようとしています。
クレデンシャルハーベスティングで想定される被害
クレデンシャルハーベスティングによる被害は、個人レベルから組織レベルまで幅広く、その影響は深刻です。以下に、主な被害の種類と具体例を挙げます。
- 個人情報の漏洩:
- 氏名、住所、生年月日などの基本情報が流出
- クレジットカード情報や銀行口座情報の窃取
- 医療記録や個人的な通信内容の漏洩
- 金銭的損害:
- 銀行口座からの不正送金
- クレジットカードの不正利用
- 仮想通貨ウォレットからの資産流出
- アイデンティティ詐欺:
- 被害者になりすまして新規口座の開設や借入れを行う
- ソーシャルメディアアカウントの乗っ取りと悪用
- 偽の身分証明書の作成と使用
- レピュテーションダメージ:
- SNSアカウントの乗っ取りによる風評被害
- 業務用メールアカウントを利用したスパム送信
- 個人や企業の信用失墜
- 二次被害:
- 収集された情報を基にした標的型攻撃
- パスワードリスト攻撃による他のアカウントへの不正アクセス
- フィッシング攻撃の対象となるリスクの増大
- 法的責任:
- 個人情報保護法違反による罰則
- 顧客データ漏洩に伴う損害賠償請求
- コンプライアンス違反による行政処分
これらの被害は、単に一時的な問題にとどまらず、長期にわたって影響を及ぼす可能性があります。特に個人情報や金融情報が漏洩した場合、その回復には多大な時間と労力が必要となります。
クレデンシャルハーベスティングへの対策
クレデンシャルハーベスティングへの対策は、予防、検知、対応の3つの観点から考える必要があります。以下に、より詳細かつ実践的な対策を紹介します。
- 予防策:
a) パスワードポリシーの強化- パスフレーズの使用を推奨パスワード管理ツールの導入と適切な使用方法の教育定期的なパスワード変更ではなく、侵害の疑いがある場合に変更を促す
- 多要素認証に加え、リスクベース認証の導入シングルサインオン(SSO)システムの活用ゼロトラストアーキテクチャの採用
- EDR(Endpoint Detection and Response)ソリューションの導入
- デバイス暗号化の義務化
- USBポートの制限や外部デバイスの使用ポリシーの策定
- 検知策:
a) 高度な監視システムの導入- AIを活用した異常検知システムの実装
- ユーザーおよびエンティティの行動分析(UEBA)の活用
- ダークウェブモニタリングサービスの利用
- 定期的な脆弱性評価の実施
- 外部専門家による侵入テストの実施
- バグバウンティプログラムの導入検討
- AIベースのメールフィルタリングシステムの導入
- ドメイン認証技術(SPF、DKIM、DMARC)の実装
- フィッシング報告ボタンの社内メールシステムへの統合
- 対応策:
a) インシデント対応計画の策定と訓練- 詳細なインシデント対応手順書の作成
- 定期的なテーブルトップ演習の実施
- クロスファンクショナルな対応チームの編成
- デジタルフォレンジックツールの導入
- 証拠保全手順の確立
- 外部フォレンジック専門家とのパートナーシップ構築
- 内部および外部向けの通知テンプレートの作成
- 法的要件に基づいた情報開示手順の確立
- メディア対応トレーニングの実施
- 継続的な改善:
- セキュリティメトリクスの設定と定期的な評価
- 最新の脅威情報の収集と対策への反映
- セキュリティ文化の醸成(報奨制度の導入など)
これらの対策を組織の規模や業種に合わせてカスタマイズし、継続的に実施することが重要です。また、技術的対策だけでなく、人的要因にも十分注意を払い、全従業員がセキュリティの重要性を理解し、日常的に実践できる環境を整えることが、クレデンシャルハーベスティングへの最も効果的な防御となります。
クレデンシャルハーベスティングと類似する攻撃手法
フィッシング攻撃
フィッシング攻撃は、クレデンシャルハーベスティングの最も一般的な手法の一つです。攻撃者は、信頼できる組織や個人になりすまし、ユーザーを騙して個人情報や認証情報を入力させようとします。
- 偽のウェブサイトやログインページの作成
- 緊急性を煽る文言の使用(例:「アカウントがロックされました」)
- 公式メールを模倣したデザインや文面
- 不自然なURLや送信元アドレス
フィッシング攻撃は、技術の進化とともに巧妙化しており、単純な対策だけでは防ぎきれません。組織全体でセキュリティ意識を高め、多層的な防御策を講じることが重要です。
ソーシャルエンジニアリング攻撃
ソーシャルエンジニアリング攻撃は、人間の心理的な弱点を利用して、機密情報を入手したり不正なアクセスを得たりする手法です。この攻撃は、技術的な脆弱性ではなく、人間の判断ミスや信頼関係を悪用するため、従来のセキュリティ対策では防ぐことが困難です。
- なりすまし:権威ある人物や組織になりすまして情報を引き出す
- 同情心の利用:困っている人を装い、援助を求める形で情報を入手する
- 親密性の構築:長期的な関係を築き、信頼を得てから情報を引き出す
- 緊急性の演出:時間的プレッシャーをかけ、冷静な判断を妨げる
ソーシャルエンジニアリング攻撃は、技術的な対策だけでは防ぎきれません。組織全体でセキュリティ意識を高め、疑わしい要求には必ず確認を取る文化を醸成することが重要です。
パスワードクラッキング攻撃
パスワードクラッキング攻撃は、ユーザーのパスワードを解読または推測しようとする手法です。この攻撃は、クレデンシャルハーベスティングの一環として行われることがあり、収集された暗号化されたパスワードを解読する際に使用されます。
- ブルートフォース攻撃:
- すべての可能な文字の組み合わせを試行する
- 時間はかかるが、最終的にはパスワードを解読できる可能性が高い
- 辞書攻撃:
- 一般的な単語や語句のリストを使用してパスワードを推測する
- 多くのユーザーが簡単な単語をパスワードに使用するため、効果的な場合がある
- レインボーテーブル攻撃:
- 事前に計算されたハッシュ値のテーブルを使用して、高速に解読を試みる
- 特に古い暗号化方式に対して効果的
- ハイブリッド攻撃:
- 辞書攻撃とブルートフォース攻撃を組み合わせた手法
- 辞書の単語に数字や記号を追加するなど、より複雑なパスワードを狙う
パスワードクラッキング攻撃は、コンピューティング能力の向上とともに、より高度化しています。そのため、組織は常に最新のセキュリティベストプラクティスを採用し、定期的にパスワードポリシーを見直す必要があります。
アクトのサイバーセキュリティ対策支援
アクトはSentinelOneとMSSP契約を持つ正式パートナーかつ、国内唯一のIRパートナーであり、 平常時からインシデント対応までお客さま負担をかけることなく、最高レベルのサイバーセキュリティをご提供します。また、IT導入補助金を活用して導入することも可能です。
ご興味がございましたらお気軽にお問い合わせください。