私たちの生活のあらゆる面でインターネットが不可欠となった現代社会。その一方で、サイバーセキュリティの脅威も日々進化を続けています。
「パス・ザ・クッキー攻撃」は、ウェブアプリケーションの認証システムの脆弱性を巧妙に突き、正規ユーザーのセッションを不正に利用するという、極めて危険な脅威です。
パス・ザ・クッキー攻撃の本質は、ユーザーの認証情報が保存されたクッキーを何らかの方法で入手し、それを使用して不正アクセスを行うことにあります。この攻撃の特徴は、パスワードなどの直接的な認証情報を知らなくても、システムに不正アクセスすることが可能な点です。そのため、従来の認証システムをバイパスでき、多要素認証などの高度なセキュリティ対策を施していても、この攻撃には脆弱性が残る可能性があるのです。
本記事では、パス・ザ・クッキー攻撃の仕組みや潜在的なリスクについて詳細に解説するとともに、この脅威の対策方法を紹介します。
パス・ザ・クッキー(Pass the cookie)攻撃とは
パス・ザ・クッキー攻撃は、ウェブサイトやアプリケーションの認証システムを悪用し、正規ユーザーのセッションを乗っ取ることを目的としています。攻撃者は、何らかの方法で正規ユーザーの認証クッキーを入手し、それを自身のブラウザに挿入することで、ユーザーになりすまして対象のシステムにアクセスします。この手法が「クッキーを渡す」という意味の「パス・ザ・クッキー」と呼ばれる所以です。
この攻撃の特徴は、パスワードなどの認証情報を直接盗む必要がないという点です。クッキーさえ入手できれば、システムは攻撃者を正規ユーザーとして認識してしまいます。そのため、多要素認証などの高度なセキュリティ対策を施していても、この攻撃には脆弱性が残る可能性があります。
パス・ザ・クッキー攻撃は、特に大規模なウェブサービスや企業のイントラネットなど、重要な情報を扱うシステムにとって大きな脅威となっています。攻撃が成功すれば、個人情報の漏洩や機密データへの不正アクセスなど、深刻な被害をもたらす可能性があります。この攻撃手法に対する防御は容易ではありません。クッキーの暗号化や有効期限の短縮、セッション管理の強化など、複数の対策を組み合わせて実施する必要があります。また、ユーザー側の意識向上も重要で、公共のWi-Fiの利用を控えるなど、クッキーが盗まれるリスクを最小限に抑える努力が求められます。
パス・ザ・クッキー攻撃の仕組み
パス・ザ・クッキー攻撃の仕組みは、一見単純ですがその影響は甚大です。この攻撃は主に以下のステップで行われます。
まず、攻撃者は何らかの方法で正規ユーザーのセッションクッキーを入手します。これには様々な手法が用いられますが、代表的なものとしては、公共のWi-Fiネットワークでの通信の盗聴、マルウェアを使用したユーザーのデバイスへの侵入、フィッシング詐欺によるユーザーの騙し、クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃などがあります。
次に、攻撃者は入手したセッションクッキーを自身のブラウザに設定します。これは、ブラウザの開発者ツールやクッキー管理拡張機能を使用することで比較的容易に行えます。
そして、攻撃者は対象のウェブサイトにアクセスします。サーバーはリクエストに含まれるセッションクッキーを確認し、それが有効な(認証済みの)ユーザーのものであると判断します。この時点で、サーバーは攻撃者を正規ユーザーと誤認識してしまいます。
最後に、攻撃者は正規ユーザーとしてシステムにアクセスし不正な操作を行います。これには、個人情報の閲覧や改ざん、機密データの窃取、不正な取引の実行など、様々な可能性があります。この攻撃の危険性は、攻撃者が正規ユーザーのセッションを完全に乗っ取ることができる点にあります。多くのウェブアプリケーションは、一度認証が済めば、その後の操作に対して再認証を要求しません。そのため、攻撃者は正規ユーザーと同等の権限を持って、自由に行動することができてしまうのです。
パス・ザ・クッキー攻撃の被害とリスク
この攻撃による主な被害とリスクは以下の通りです。
まず、個人情報の漏洩が挙げられます。攻撃者は正規ユーザーとしてシステムにアクセスできるため、そのユーザーの個人情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど)を自由に閲覧し窃取することができます。これは、個人のプライバシーを著しく侵害するだけでなく、さらなる犯罪(なりすまし詐欺など)の温床となる可能性があります。
次に、金銭的損失のリスクがあります。特に、オンラインバンキングやECサイトなどの金融サービスが攻撃対象となった場合、攻撃者は不正な送金や購入を行う可能性があります。被害者は気づかないうちに、多額の金銭的損失を被る可能性があるのです。
また、機密情報の漏洩も大きなリスクです。企業や組織のシステムが攻撃を受けた場合、営業秘密や知的財産、顧客データベースなどの重要な情報が流出する可能性があります。これは、競争力の低下や信用失墜など、組織に致命的なダメージを与える可能性があります。さらに、攻撃者がシステム内で権限昇格を行い、より高度な権限を持つアカウントを乗っ取る可能性もあります。これにより、システム全体が危険にさらされ、さらに大規模な被害が発生する可能性があります。
最後に、レピュテーションリスクも無視できません。攻撃の事実が公になれば、ユーザーや顧客の信頼を失いブランドイメージが大きく損なわれる可能性があります。特に、個人情報や金融情報を扱う組織にとってこのリスクは致命的となり得ます。
パス・ザ・クッキー攻撃の対策方法
パス・ザ・クッキー攻撃は巧妙な手法ですが、適切な対策を講じることでそのリスクを大幅に軽減することができます。以下に、効果的な対策方法を詳しく説明します。
まず、セッション管理の強化が重要です。セッションIDを含むクッキーには、適切な有効期限を設定し定期的に更新する必要があります。長時間有効なセッションは攻撃のリスクを高めるため、できるだけ短い有効期限を設定し、一定時間経過後や重要な操作の前には再認証を要求するようにします。
次に、セキュアクッキーの使用が挙げられます。HTTPSプロトコルを使用し、クッキーにSecure属性を設定することで、暗号化された通信でのみクッキーを送信するようにします。また、HttpOnly属性を設定することで、JavaScriptからのクッキーへのアクセスを防ぎ、XSS攻撃によるクッキーの盗取リスクを軽減します。
IPアドレスの検証も有効な対策です。セッション開始時のIPアドレスを記録し、その後のリクエストでIPアドレスが変更されていないかを確認します。ただし、モバイルデバイスの使用やNATの影響で正規ユーザーのIPアドレスが変更される可能性もあるため柔軟な対応が必要です。
多要素認証(MFA)の導入も強力な対策となります。パスワードに加えて、スマートフォンのアプリやハードウェアトークンなどを使用した第二の認証要素を要求することで、クッキーが盗まれても不正アクセスを防ぐことができます。特に、重要な操作(例:送金、個人情報の変更)の前にMFAを要求することで、セキュリティを大幅に向上させることができます。
また、クッキーの暗号化も重要です。セッションIDやその他の重要な情報を含むクッキーは、サーバーサイドで暗号化してから送信し、受信時に復号化するようにします。これにより、クッキーが盗まれても、その内容を簡単に読み取ることはできなくなります。
さらに、継続的なセキュリティ監視とログ分析も欠かせません。不自然なログイン試行や、通常とは異なる操作パターンを検出するシステムを導入することで、攻撃の早期発見と対応が可能になります。
最後に、ユーザー教育も重要な対策の一つです。公共のWi-Fiの使用を控える、不審なリンクをクリックしない、定期的にパスワードを変更するなど、基本的なセキュリティプラクティスをユーザーに周知徹底することでクッキーが盗まれるリスクを低減できます。
そもそもクッキー(cookie)とは?
クッキー(cookie)は、ウェブブラウザとウェブサーバー間でやり取りされる小さなテキストファイルです。これらは、ウェブサイトがユーザーの情報を記憶し、ユーザー体験を向上させるために使用される重要な技術です。クッキーの主な目的は、ステートレスなHTTPプロトコル上で、ステートフルな情報を維持することです。HTTPは基本的に各リクエストが独立しており、前後の関係性を持ちません。しかし、クッキーを使用することで、ウェブサイトは以前のアクションや設定を記憶し、それに基づいて動作を変更することができます。
利用目的は多岐にわたります。最も一般的な用途は、ユーザーのログイン状態の維持です。ユーザーがログインすると、サーバーはセッションIDを含むクッキーをブラウザに送信します。その後のリクエストでは、ブラウザがこのクッキーを自動的にサーバーに送り返すことで、ユーザーは再度ログインすることなく認証済みの状態を維持できます。また、クッキーはユーザーの好みや設定を記憶するためにも使用されます。例えば、ウェブサイトの言語設定、ダークモードの有効/無効、商品のカート内容など、様々な情報をクッキーに保存することができます。これにより、ユーザーは毎回同じ設定を行う手間が省け、より快適なウェブ体験を得ることができます。
さらに、クッキーは行動追跡やターゲティング広告にも利用されます。ウェブサイトは、ユーザーの閲覧履歴や興味関心をクッキーに記録し、それに基づいてパーソナライズされたコンテンツや広告を提供することができます。
ウェブサーバーがHTTPレスポンスヘッダーにSet-Cookieディレクティブを含めることで、ブラウザにクッキーの保存を指示します。ブラウザはこの指示に従ってクッキーを保存し、その後同じドメインへのリクエスト時に自動的にクッキーを送信します。クッキーには、名前、値、有効期限、パス、ドメイン、セキュリティフラグなどの属性があります。これらの属性を適切に設定することで、クッキーの有効範囲やセキュリティを制御することができます。
セッションIDや個人情報などの機密データを含むクッキーは適切に保護する必要があります。そのため、多くのウェブサイトでは、HTTPSを使用して通信を暗号化し、クッキーにSecure属性を設定して、暗号化された接続でのみクッキーを送信するようにしています。
また、HttpOnly属性を設定することで、JavaScriptからのクッキーへのアクセスを防ぎ、クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃によるクッキーの盗取リスクを軽減することができます。クッキーには、セッションクッキーと永続的クッキーの2種類があります。セッションクッキーはブラウザを閉じると消去されますが、永続的クッキーは指定された有効期限まで保存されます。
セキュリティの観点からは、可能な限りセッションクッキーを使用し、永続的クッキーの使用は必要最小限に抑えることが推奨されます。近年、プライバシーに対する懸念から、クッキーの使用に関する規制が強化されています。EUの一般データ保護規則(GDPR)や、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)などの法律では、ユーザーの同意なしにクッキーを使用することを制限しています。そのため、多くのウェブサイトでは、クッキーの使用に関する同意を求めるポップアップやバナーを表示するようになっています。
クッキーは非常に有用な技術ですが、同時にセキュリティやプライバシーのリスクも伴います。ウェブサイト運営者は、クッキーの適切な使用と保護に努める必要があり、ユーザーもクッキーの仕組みを理解し、自身の情報をどのように管理するかを意識することが重要です。
他のセキュリティ攻撃との違い
パス・ザ・クッキー攻撃は、他のウェブセキュリティ攻撃と比較していくつかの特徴的な違いがあります。ここでは、クロスサイトスクリプティング(XSS)、クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF)、SQLインジェクションとの違いを詳しく見ていきます。
まず、クロスサイトスクリプティング(XSS)との違いを考えてみましょう。
XSS攻撃は、攻撃者が悪意のあるスクリプトを脆弱なウェブサイトに挿入し、そのスクリプトが他のユーザーのブラウザで実行されることを目的としています。一方、パス・ザ・クッキー攻撃は既に存在する正規のクッキーを盗み取り、それを使用して不正アクセスを行います。攻撃者は主にJavaScriptを使用してユーザーのブラウザ内でコードを実行し、クッキーを盗み取ったり、ユーザーの操作を偽装したりします。
これに対し、パス・ザ・クッキー攻撃では、攻撃者は既に盗み取ったクッキーを使用して、サーバーに対して直接リクエストを送信します。XSS攻撃の防御には、入力値のサニタイズやコンテンツセキュリティポリシー(CSP)の実装などが効果的ですが、これらの対策はパス・ザ・クッキー攻撃に対しては直接的な効果がありません。パス・ザ・クッキー攻撃への対策には、セッション管理の強化やクッキーの暗号化などが必要となります。
次に、クロスサイトリクエストフォージェリ(CSRF)との違いを見てみましょう。CSRF攻撃は、攻撃者が被害者のブラウザに、被害者の意図しないリクエストを送信させることを目的としています。これに対し、パス・ザ・クッキー攻撃は、攻撃者が直接盗んだクッキーを使用してリクエストを送信します。CSRF攻撃では、被害者のブラウザが自動的にクッキーを送信するという性質を利用しますが、攻撃者自身はそのクッキーの内容を知ることはできません。一方、パス・ザ・クッキー攻撃では、攻撃者は盗んだクッキーの内容を直接操作し、使用することができます。
最後に、SQLインジェクションとの違いを考えてみましょう。SQLインジェクション攻撃は、ユーザー入力を通じて悪意のあるSQLコードをデータベースクエリに挿入し、データベースを不正に操作することを目的としています。
一方、パス・ザ・クッキー攻撃は、データベースを直接標的とするのではなく、ユーザーセッションの乗っ取りを目的としています。SQLインジェクション攻撃では、攻撃者はアプリケーションの入力フィールドを通じてデータベースと直接やり取りしようとします。これに対し、パス・ザ・クッキー攻撃では、攻撃者は既存の正規ユーザーセッションを利用してアプリケーションにアクセスします。
SQLインジェクション攻撃の防御には、プリペアドステートメントの使用やユーザー入力のサニタイズが効果的ですが、これらの対策はパス・ザ・クッキー攻撃に対しては直接的な効果がありません。パス・ザ・クッキー攻撃への対策には、セッション管理の強化や多要素認証の導入などが必要となります。これらの違いを理解することは、適切なセキュリティ対策を講じる上で非常に重要です。パス・ザ・クッキー攻撃は、他の攻撃手法と比較して、より高度で検出が困難な攻撃であり、従来のセキュリティ対策だけでは十分に防御できない可能性があります。そのため、パス・ザ・クッキー攻撃に特化した対策を講じることが必要不可欠となります。
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