「ランダムサブドメイン攻撃」、別名「DNS水攻め攻撃」は、インターネットの根幹を支えるDNS(Domain Name System)を標的としており、その影響は個々の組織にとどまらず、インターネット全体の安定性を脅かす可能性があります。本記事では、ランダムサブドメイン攻撃の概要、仕組み、想定されるリスク、そして効果的な対策について詳しく解説します。
ランダムサブドメイン攻撃(DNS水責め攻撃)とは
ランダムサブドメイン攻撃、別名DNS水責め攻撃は、DNSサーバーを標的とした巧妙なサイバー攻撃手法です。この攻撃は、大量のランダムなサブドメインクエリを送信することで、DNSサーバーに過剰な負荷をかけ、正常なサービスを妨害することを目的としています。
攻撃者は、存在しない可能性が高いランダムなサブドメイン名を大量に生成し、それらの名前解決要求をDNSサーバーに送信します。例えば、「abcde.example.com」「fghij.example.com」といった具合です。DNSサーバーは、これらの要求に対して順次処理を行いますが、存在しないドメイン名の場合、上位のDNSサーバーに問い合わせを行う必要があります。この過程で、DNSサーバーのリソースが大量に消費され、正常なクエリの処理が遅延したり、最悪の場合サーバーがダウンしたりする可能性があります。この攻撃が「水責め」と呼ばれる理由は、少量の水が継続的に供給されることで最終的に大きな被害をもたらす水拷問(Water torture)になぞらえているためです。
ランダムサブドメイン攻撃は、一見すると個々のクエリは無害に見えますが、その累積的な効果によって深刻な被害をもたらす可能性があります。従来のDDoS攻撃とは異なり、比較的少量のトラフィックで大きな影響を与えることができるため、検出が困難であるという特徴があります。また、DNSサーバーだけでなく、その上位のDNSサーバーにも影響を及ぼす可能性があるため、インターネット全体の安定性を脅かす潜在的な脅威となっています。
ランダムサブドメイン攻撃の仕組み
ランダムサブドメイン攻撃の仕組みは、DNSの階層構造と再帰的な名前解決プロセスを巧みに利用しています。以下に、その詳細な仕組みを説明します。
- 攻撃の準備:
攻撃者は、まず標的となるドメイン(例:example.com)を選択します。次に、大量のランダムなサブドメイン名(例:abcde.example.com, fghij.example.com)を生成するスクリプトを準備します。 - クエリの送信:
攻撃者は、生成したランダムなサブドメイン名に対する名前解決要求を、標的のDNSサーバーに大量に送信します。これらのクエリは、通常のDNSクエリと見分けがつかないため、初期段階での検出が困難です。 - DNSサーバーの処理:
標的のDNSサーバーは、受け取ったクエリを処理しようとします。しかし、これらのランダムなサブドメインは存在しない可能性が高いため、サーバーは以下の手順を踏むことになります:
a. 自身のキャッシュを確認
b. 権威DNSサーバーに問い合わせ
c. 上位のDNSサーバーに問い合わせ - リソースの消費:
この過程で、DNSサーバーはメモリ、CPU、ネットワーク帯域幅などのリソースを消費します。特に、上位のDNSサーバーへの問い合わせは時間がかかり、サーバーのリソースを長時間占有することになります。 - キャッシュの肥大化:
存在しないドメイン名の応答もキャッシュに保存されるため、DNSサーバーのキャッシュが急速に肥大化します。これにより、正常なクエリの処理速度が低下する可能性があります。 - サービスの低下:
大量のランダムクエリ処理により、DNSサーバーの処理能力が圧迫され、正常なクエリの応答時間が遅延したり、最悪の場合サーバーがダウンしたりする可能性があります。 - 連鎖的影響:
攻撃の影響は、標的のDNSサーバーだけでなく、上位のDNSサーバーにも及ぶ可能性があります。これにより、インターネット全体のDNSインフラストラクチャに負荷がかかる可能性があります。
この攻撃の特徴は、個々のクエリは正常なDNSクエリと区別がつかないため、従来のDDoS対策では検出が困難な点にあります。また、比較的少量のトラフィックで大きな影響を与えられるため、攻撃者にとっては効率的な手法となっています。
ランダムサブドメイン攻撃で想定されるリスク
ランダムサブドメイン攻撃は、組織のDNSインフラストラクチャに深刻な影響を与える可能性があります。以下に、この攻撃によって想定されるリスクを詳細に説明します。
- DNSサービスの機能低下:
攻撃を受けたDNSサーバーは、大量のランダムクエリ処理に忙殺され、正常なクエリの処理が遅延する可能性があります。これにより、ユーザーがウェブサイトにアクセスしたり、メールを送受信したりする際に、著しい遅延が発生する可能性があります。最悪の場合、DNSサーバーが完全にダウンし、関連するすべてのサービスが利用不可能になる可能性があります。 - ウェブサービスの可用性低下:
DNSの機能低下は、組織のウェブサイトやオンラインサービスの可用性に直接影響します。ユーザーがドメイン名を解決できない場合、ウェブサイトにアクセスできなくなり、ビジネスの中断や顧客満足度の低下につながる可能性があります。 - メールサービスの中断:
DNSは電子メールの配信にも不可欠です。DNSサーバーが正常に機能しない場合、メールの送受信が遅延したり、完全に停止したりする可能性があります。これは、ビジネスコミュニケーションに深刻な影響を与える可能性があります。 - セキュリティリスクの増大:
DNSサーバーが過負荷状態になると、他の種類のサイバー攻撃に対する脆弱性が高まる可能性があります。例えば、DNSキャッシュポイズニング攻撃や中間者攻撃などの二次的な攻撃のリスクが増大する可能性があります。 - ネットワークパフォーマンスの低下:
ランダムサブドメイン攻撃は、標的となったDNSサーバーだけでなく、ネットワーク全体のパフォーマンスに影響を与える可能性があります。大量のDNSクエリがネットワーク帯域幅を消費し、他のサービスのパフォーマンスも低下させる可能性があります。 - レピュテーションの損害:
サービスの中断や遅延が長期化すると、組織の評判が損なわれる可能性があります。顧客やパートナーは、信頼性の低いサービスを避ける傾向があるため、長期的なビジネス関係に影響を与える可能性があります。 - 財務的影響:
サービスの中断による直接的な収益損失に加え、システムの復旧やセキュリティ強化にかかるコスト、さらには潜在的な法的責任や罰金などの間接的なコストも発生する可能性があります。 - 上位DNSインフラストラクチャへの影響:
ランダムサブドメイン攻撃の影響は、標的となった組織を超えて広がる可能性があります。上位のDNSサーバーやインターネットサービスプロバイダ(ISP)のインフラストラクチャにも負荷がかかり、より広範囲のインターネットユーザーに影響を与える可能性があります。
これらのリスクは、組織の規模や業種によって影響の度合いが異なりますが、いずれも深刻な結果をもたらす可能性があります。そのため、ランダムサブドメイン攻撃に対する適切な対策を講じることが極めて重要です。
ランダムサブドメイン攻撃の対策
ランダムサブドメイン攻撃に対する効果的な対策は、多層的なアプローチを必要とします。以下に、組織が実施できる具体的な対策を詳細に説明します。
- DNSサーバーの強化:
- DNSソフトウェアを最新バージョンに更新し、既知の脆弱性を修正する
- DNSサーバーのリソース(CPU、メモリ、ネットワーク帯域幅)を増強する
- DNSクエリレート制限を実装し、単一のソースからの過剰なクエリを制限する
- モニタリングとアラートシステムの導入:
- DNSトラフィックを常時監視し、異常なパターンを検出する
- ランダムサブドメインクエリの急増を検知した場合、即座にアラートを発する
- リアルタイムの分析ツールを導入し、攻撃の早期発見と対応を可能にする
- フィルタリングとブロッキング:
- 既知の悪意あるIPアドレスからのトラフィックをブロックする
- 異常に高頻度で発生するサブドメインクエリをフィルタリングする
- ワイルドカードDNSレコードを使用して、存在しないサブドメインに対する応答を最適化する
- DNSSECの導入:
- DNSSECを実装し、DNSレスポンスの真正性と完全性を保証する
- これにより、キャッシュポイズニング攻撃のリスクも軽減できる
- 分散型DNSアーキテクチャの採用:
- 複数のDNSサーバーを地理的に分散して配置し、単一障害点を排除する
- CDN(コンテンツデリバリーネットワーク)を活用し、DNSクエリの負荷を分散させる
- レートリミッティングの実装:
- 特定のIPアドレスやネットワークからの過剰なDNSクエリを制限する
- 動的なレートリミッティングアルゴリズムを導入し、攻撃パターンに応じて制限を調整する
- アプリケーションレベルでの対策:
- アプリケーションのDNSキャッシュ機能を最適化し、不要なDNSクエリを減らす
- サブドメインの使用を最小限に抑え、攻撃対象となる可能性を減らす
- インシデント対応計画の策定:
- ランダムサブドメイン攻撃に特化したインシデント対応手順を確立する
- 定期的な訓練を実施し、チームの対応能力を向上させる
- 攻撃発生時の連絡体制や役割分担を明確にする
- 教育とトレーニング:
- セキュリティチームに対し、ランダムサブドメイン攻撃の特性と対策について定期的なトレーニングを実施する
- 一般従業員にもDNSセキュリティの重要性について啓発を行う
- サードパーティサービスの活用:
- DDoS緩和サービスを利用し、大規模な攻撃に対する防御力を強化する
- マネージドDNSサービスを検討し、専門家による24時間監視と対応を確保する
- 定期的なセキュリティ評価:
- DNSインフラストラクチャに対する脆弱性評価を定期的に実施する
- ペネトレーションテストを行い、実際の攻撃に対する耐性を確認する
これらの対策を組み合わせて実施することで、ランダムサブドメイン攻撃に対する組織の防御力を大幅に向上させることができます。ただし、サイバー脅威は常に進化しているため、対策も継続的に見直し、更新していく必要があります。
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